メーカーECはなぜ代理店依存になる?任せていい仕事と自社に残す判断

EC責任者コース LEVEL4|組織を作る

メーカーECでは、代理店と一緒に運営するのが一般的です。広告運用のように専門性が高く、動きも速い領域はなおさらで、すべてを自社だけで回すのは現実的ではありません。実際、良い代理店と組んで売上が伸びることもあります。

それでも「任せすぎているのではないか」と感じる瞬間があります。私がそう感じるのは、外注の比率が高いときではありません。メーカー側の担当者が数字を自分の言葉で説明できなくなっていて、施策をやるかどうかの判断まで代理店に預けているときです。

この記事で扱うのは、代理店を使うべきかどうかではありません。どこを任せ、どこを自社に残すのか。その線引きと、判断する力を社内に残すための具体的なやり方を整理します。


この記事でわかること

  • 代理店に任せること自体は問題ではない理由
  • 「実行を任せる」と「判断まで任せる」の違い
  • メーカー側が自社に持っておきたい4つのもの
  • レポーティングが判断力を左右する理由と、足りないときの対処
  • 提案・判断・実行・検証を誰が担うかという役割分担
目次

代理店に任せること自体は、問題ではない

「代理店依存」という言葉は、外注している状態そのものを指して使われることがあります。私はその定義を取っていません。外注比率が高いことが問題なのではなく、誰が判断しているかが問題だと考えています。

実行を任せること自体には合理性があります。専門領域には専門の会社が強く、こちらが片手間でやるより成果が出ることも多い。内製化すれば解決するという話でもありません。自社でやっていても、判断が一人に閉じていれば同じことが起きます。

見るべきは、誰が実行しているかではなく、誰が判断しているかです。ここが入れ替わっていなければ、外注の比率が高くても問題にはなりません。


危ないのは「判断」まで任せている状態

私が危ないと感じるのは、次のような状態です。

  • 担当者が、数字を自分の言葉で説明できない
  • 施策の良し悪しを、自分で判断できない
  • 提案を「代理店が言うなら」という理由で通している
  • 自社としてのKPIや、ここまでなら許容するというラインを持っていない

とくに「代理店が言うなら、そうしよう」で施策が決まり始めたら、注意したほうがいいと思っています。提案の中身が悪いという意味ではありません。良い提案であることも多いです。問題は、メーカー側がなぜその施策をやるのか、どの数字を動かしにいくのか、どこまでなら許容できるのかを判断できなくなっていることです。

この状態になると、成果が出ている間は何も起きません。表面化するのは、数字が落ちたときや担当者が変わったときです。そのとき、判断の材料が社内に何も残っていないことに気づきます。


メーカー側が自社に持っておきたい4つのもの

代理店を使っていても、次の4つは自社側に置いておきたいと考えています。

自社に持つもの具体的に決めること渡してしまうと起きること
KPI設計何を追うのか。売上なのか、利益なのか、新規獲得なのか代理店が管理しやすい指標に寄り、事業として追いたい数字とずれる
許容ROASどこまでなら投資してよいか、どの水準で止めるか効率の基準が相手任せになり、良し悪しを判断できなくなる
施策判断提案を実施するかどうかの最終決定「代理店が言うなら」で通り、やらない判断ができなくなる
新規売上新規顧客からいくら・何個の売上を作れているか既存の効率を守ることが目的化し、次の成長の判断が弱くなる

この中で見落とされやすいのが新規売上です。売上全体とROASだけを見ていると、既存顧客で効率よく数字を作っている状態が高く評価されます。それ自体は悪くありませんが、新規がどれだけ積み上がっているかを別に持っていないと、守りの運用が続いていることに気づけません。

売上を分けて見ると、判断できるようになる

判断するために、特別なフレームは必要ありません。売上をいくつかの軸で分けて、その施策がどこを伸ばそうとしているのかを把握できれば十分です。

まず売上をアクセス・CVR・客単価に分けて、どこが動いたのかを見る。そのうえで、新規と既存、チャネル、商品、施策といった軸で分けていきます。すると「この提案はアクセスを増やしにいく施策なのか、CVRを上げにいく施策なのか」「新規を取りにいくのか、既存の効率を上げるのか」が見えます。

ここまで分かれば、提案を受けたときに判断できます。逆にここが曖昧なままだと、効率が良いという説明をそのまま受け取るしかありません。売上の分け方そのものはECの売上の仕組みで整理しています。


広告運用は任せていい。ただし「運用」と「判断」は分ける

広告運用は、代理店に任せてよい領域だと考えています。

基本的なことですが、広告ではタイミングとキーワード選定が効きます。そして一度決めて終わりではなく、継続的に見直し続ける必要があります。この手を動かし続ける部分は、専門の会社に任せたほうが合理的です。自社で片手間にやって、更新が止まるほうが損失は大きい。

ただ、「広告運用を任せる」ことと「広告の判断まで任せる」ことは別です。予算をどこに置くか、どの水準まで効率が落ちたら止めるか、新規獲得にどれだけ振るか。これらは運用の巧拙ではなく、事業としての判断です。実行は渡しても、この部分は手元に置いておく。線はここに引いています。


レポーティングがないと、判断する力は残らない

私が「この代理店はかなり優秀だな」と感じるのは、広告運用そのものより、レポーティングと効果検証をメーカーと一緒にやってくれるときです。数字を出して終わりではなく、何をして、どう動いて、どう評価しているのかを共有してくれる状態です。

なぜここを重視するかというと、メーカー側の担当者が成長するために必要だからです。ここが弱いと、次の順番で判断力が失われていきます。

  • 数字と施策の背景を、代理店だけが把握している状態になる
  • メーカー側の担当者が、何が起きているのか分からなくなる
  • 代理店の説明を、そのまま受け入れるようになる
  • 施策の判断まで、代理店に預かってもらうようになる

どの段階も自然に進むので、途中で止めにくいのが厄介なところです。最初の一歩は「分からないまま受け取る」ことなので、ここを放置しないことが現実的な対策になります。


レポートが足りないときは、メーカー側から形式を渡す

代理店がしっかりレポーティングしてくれるなら、それに越したことはありません。十分でない場合は、メーカー側で報告のテンプレートを作り、その形式で出してもらうフローにするという手が取れます。

大がかりなものを新しく作る必要はありません。最低限、次の5つが毎回そろっていれば、判断の材料としては足ります。

  • 何を実施したか
  • なぜ実施したか
  • 数字がどう動いたか
  • その結果をどう評価しているか
  • 次に何をするか

この形式を決めておくと、報告が数字の羅列で終わらなくなります。「なぜ実施したか」と「どう評価しているか」が毎月言語化されるので、担当者が変わっても経緯を追えます。こちらから形式を指定することは、代理店にとっても判断基準が見えるという意味があります。


提案・判断・実行・検証を、誰が担うか

ここまでを役割分担として並べると、基本の流れはこうなります。

工程担うのはここが崩れると
① 提案代理店提案が出てこないと、改善が止まる
② 判断メーカー「代理店が言うなら」で決まり、やらない判断ができなくなる
③ 実行代理店片手間の自社運用になり、更新が止まる
④ 検証両者で評価が代理店側の説明だけになり、次の判断材料が社内に残らない
⑤ 次の提案へ代理店単発の施策が並ぶだけで、積み上がらない

②と④が自社側にあるかどうかで、同じ外注でも残るものが変わります。実行をすべて任せていても、判断と検証に関わっていれば、担当者には経験が残ります。

よく「代理店に任せていると成長しない」と言われますが、正確ではないと思っています。任せること自体ではなく、どの部分を任せているかです。メーカーEC担当として身につけたいのは作業そのものより判断する力で、そのためにはデータの読み方、トレンド、モールの特性といったことを学ぶ必要があります。これは実行を代理店に任せながらでも学べます。逆に、判断まで渡してしまうと学ぶ機会そのものがなくなります。なお、こうした代理店管理の経験がキャリアでどう評価されるかはなぜ代理店管理は評価されにくいのかで扱っています。


代理店とは、一緒に成長する関係をつくる

理想は、代理店と一緒に成長していく関係だと考えています。

代理店にはそれぞれ一長一短があります。広告に強い会社、モールに強い会社、改善提案が得意な会社。同じように、メーカー側の担当者によっても、何を任せたいか、何を自社でやりたいか、どこを補ってほしいかは変わります。最初から噛み合っていることのほうが少ない、と考えておいたほうが現実的です。

だからこそ、メーカー側から要望を具体的に伝えて、自社に合った形で運用してもらう必要があります。レポートの形式を指定するのも、その一つです。何も言わないまま「期待と違う」と感じているなら、まだ伝えていないことがあるかもしれません。

なお、成果が代理店の実力によるものなのかを切り分けること自体が難しい、という別の問題もあります。そちらはEC代理店の評価はなぜ難しい?で扱っています。


まとめ

この記事のまとめ

  • 問題は外注の比率ではなく、判断まで代理店に預けているかどうか
  • 自社に持っておきたいのは、KPI設計・許容ROAS・施策判断・新規売上の4つ
  • 広告運用は任せてよいが、予算配分や撤退ラインの判断は手元に置く
  • レポーティングが弱いと、分からないまま受け取る状態から依存が始まる
  • 提案は代理店、判断はメーカー、実行は代理店、検証は両者で

代理店を使うこと自体に問題はありません。専門領域を任せるのは合理的な選択ですし、内製化すれば解決するという話でもありません。

分かれ目は、提案を受けたときに「やる・やらない」を自分の言葉で決められるかどうかです。そのために必要なのは、追うべきKPIと許容できるラインを自社で持っていること、そして数字と施策の背景が毎回共有されていることだと考えています。

任せる範囲を減らす必要はありません。判断と検証から降りないことのほうが、ずっと大事だと思っています。


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この記事を書いた人

EC Career Lab運営者

EC領域で約10年。メーカーEC、ECモール企業でのメーカー支援(100社以上)を経て、現在はメーカー側で複数モールを統括し、月商1〜2億円規模のEC事業を運用しています。

メーカーECの実務とキャリアについて、現場での経験をもとに発信しています。

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