EC責任者コース LEVEL4|組織を作る(発展教材)
EC広告代理店を評価しようとして、手が止まったことはないでしょうか。売上は伸びている。ROASも目標の範囲に収まっている。レポートも毎月出てくる。それでも「この代理店は良いのか」と聞かれると答えに詰まる、という状態です。
私はメーカーEC担当として複数の代理店と仕事をしてきましたが、中途入社した当時は、代理店から提案を受けてそれを確認する、という流れが中心でした。成果は出ていました。ただ、なぜ成果が出ているのか、何が効いているのか、次に何を変えるべきなのかが、社内で整理されている状態ではありませんでした。
この記事で扱うのは、評価の基準そのものではありません。なぜEC代理店の評価はこれほど難しいのか、その理由を整理します。実際にどの基準で継続・改善・変更を判断するかは別の記事にまとめているので、先に理由のほうを共有させてください。
この記事でわかること
- 数字が揃っていても代理店を評価できない理由
- 売上を動かしている、代理店以外の要因
- 数字が悪い代理店より「ちゃんとしているけど微妙」な代理店のほうが難しい理由
- ROASを守ることと、次の成長を作ることが同じではないこと
- 切り分けられない前提で、それでも見られるもの
数字が見えていないから、評価が難しいのではない
評価が難しいのは情報が足りないからだ、と思われがちです。実際には、売上・CVR・CTR・CPAといった必要な数値をすべて開示してもらっていても、それで代理店を評価できるとは限りません。
難しさの正体は別のところにあります。数字は見えている。けれど、その数字が誰の何によって動いたのかが分からない。ここが評価を止めます。
もう一つ、実務で感じていたことがあります。数値は見せ方によって、ある程度どうとでも説明できてしまう、ということです。期間の切り方、比較対象、どの指標を前に出すか。悪意がなくても、報告は「説明がつく形」に整えられます。
広告では許容できるROASを担保できていて、売上も伸びている。数字の上では悪くありません。それでも私は、売上が伸びた=代理店が良かった、とは単純に判断できませんでした。ECの売上が伸びる理由は広告だけではなく、複数の要因が同時に動いているからです。
売上は、代理店以外の要因でも動く
私が実際に経験した範囲でも、セール、商品力、広告費の増額、モールのイベントが同じ時期に重なることがありました。そこに自社側の施策が加わることもあります。こうなると売上が伸びても、何がどれだけ効いたのかを代理店の成果だけに切り分けるのは、かなり難しくなります。
下の表は、一般的に売上へ影響しうる要因を整理したものです(すべてを私が経験したという意味ではなく、評価のときに頭に置いておく項目として並べています)。
| 同時に動きうる要因 | 売上への効き方 | 評価のときに混ざること |
|---|---|---|
| セール・値引き | 価格が下がれば購入率は動きやすい | 広告の成果として報告される数字に、価格の効果が乗る |
| 商品力・新商品 | 売れる商品が入れば、広告の巧拙に関わらず数字は動く | 代理店の運用改善と、商品側の要因が分離できない |
| 広告費の増額 | 予算を増やせば、売上そのものは増えやすい | 売上の伸びが運用改善によるものか、投下量の差か分からない |
| モールのイベント | 売場全体に人が集まる期間は、通常月と比較できない | イベント月の好調を、代理店の成果として扱ってしまう |
| 自社側の施策 | ページ改善、CRM、SNSなど広告以外の取り組み | 社内施策と代理店施策が同時に走り、どちらの効果か見えない |
| 季節性・市場の動き | 需要期と閑散期では前提が違う | 前年同月や前月との比較が成立しにくくなる |
| 競合の動き | 競合の在庫切れや価格変更で自社の数字が動く | 自社の施策の成果に見えてしまう |
ここで正直に書いておくと、私はこれらを「代理店の成果は◯%」というように分解していたわけではありません。評価できないものは評価しづらい、というのが実態でした。
広告を出さなかった場合にどれだけ売れていたのか、その差だけを厳密に測るのも、実務では簡単ではありません。だから「切り分けの精度を上げること」を評価のゴールに置くと、いつまでも結論が出ません。切り分けられない前提で何を見るか、という考え方に切り替える必要があります。
本当に難しいのは「ちゃんとしているけど、微妙な代理店」
評価しやすいケースは、実は両端にあります。
数字が明らかに悪くて、改善案も出てこない。この場合は判断がつきます。逆に、明確に良い結果が出ていて、改善も続いている。これも分かりやすい。どちらも、評価に迷う時間は長くありません。
一番判断しづらいのは、その間にある状態です。
- 運用はちゃんとしている
- 売上も微増している
- 数値も特別悪くない
- レポートも問題なく出てくる
- ただし、打ち手がずっと変わらない
「ちゃんとやってくれている。でも、このままでいいのか分からない」。この状態の代理店が、私は最も評価しづらいと感じていました。
理由は単純で、止める理由がないからです。問題が起きているわけではないので、変更を切り出す材料がありません。一方で、積極的に続ける理由も強くない。問題がないことと、伸ばせていることは別です。そして前者の状態は、放っておくと何年も続きます。
数字が悪いときのほうが、むしろ話は早いこともあります。私自身、こちらから見ても「これはどうしようもない」と思える状況であれば、数字が悪いことだけを理由に代理店を責めることはありませんでした。ただ、その領域のスペシャリストとして依頼している以上、悪いときほど「次に何を提案してくれるか」は見ていました。結果そのものより、その状況に対して手が出てくるかどうかです。
ROASを守ることと、次の成長を作ることは同じではない
「打ち手が変わらない」という状態は、代理店の怠慢とは限りません。代理店側にも、新しい提案をしにくい事情があります。
売上は伸びている。許容できるROASも担保されている。数値だけを見れば悪くない。それでもメーカー側としては、「もう少しリスクを取って、新規顧客を取りにいけるのではないか」と思うことがあります。実際、新規獲得の部分だけ十分に数字が見えない、ということもありました。
一方で、代理店の立場からすると、いま守れているKPIを崩す提案はしにくいはずです。新規顧客を取りにいけば、短期的にROASは悪化します。それを提案して数字が落ちたとき、責任を問われるのは提案した側です。だから無難な運用が続く。これは理解できる話で、「代理店がリスクを取らないのが悪い」という結論にはなりません。
ここで評価が難しくなるのは、既存のKPIを守ることと、次の成長を作ることが、必ずしも同じではないからです。KPIを守っている代理店は、評価基準の上では問題がありません。問題がないのに物足りない、という状態が生まれます。
私がいま考えているのは、ここを代理店だけに要求しても動かない、ということです。「もっとチャレンジしてください」と伝えるだけでは、相手が負うリスクは変わりません。発注側が先に決めておくべきことがあります。
- どこまでなら試していいのか
- 何を一時的に悪化させてもいいのか(ROASなのか、CPAなのか)
- どの予算をテストに使えるのか
- うまくいかなかったとき、それを代理店だけの責任にしないか
これを渡さないまま挑戦を求めるのは、代理店に過度なリスクを取らせることになります。評価する前に、提案しやすい状態を作れていたかどうかを自分側で確認する。この順番だと私は考えています。
メーカーと代理店では、見えているものが違う
評価が難しい理由として、もう一つ実感があったのが情報の差です。私の場合、大きかったのは社内事情でした。社内で何が決まっていて、何が止まっていて、どういう優先順位で動いているのか。これは代理店からは見えません。
逆に、配信面の細かい実態や入札の動きは、こちら側からは代理店ほど見えていません。同じ数字を一緒に見ていても、その背景にある情報は両者で違います。この状態で成果の原因を特定しようとしても、議論は噛み合いにくくなります。
加えて、同じ数字を見ていても、評価される基準そのものが違います。代理店は広告の運用成果で評価されやすい立場にあり、メーカー側は利益やチャネル全体のバランスまで含めて見る必要があります。自社側に判断軸がないと、自然と代理店側のKPIに引っ張られます。代理店がどういう収益構造で動いているのかはEC代理店とは?ビジネスモデルとメーカーとの関係を解説で整理しています。
切り分けられない前提で、何を見るのか
成果を正確に分解できない以上、数字そのものだけで代理店を評価することはできません。では何を見るのか。私がいま、過去の自分に一つだけ伝えるとしたら、改善案を出せるかどうかです。
成果が出ている月も、出ていない月も、次の手が出てくるか。改善に対してどれだけ貪欲でいてくれるか。ここは、売上が誰の手柄かを特定できなくても観察できます。
具体的には、次の流れが回っているかどうかを見ていました。
- 改善案が出てくるか(現状維持の報告で終わっていないか)
- なぜその改善案なのかを説明できるか(何を課題だと見て、どの変数に手を入れようとしているのか)
- 実施した結果から、次の打ち手を考えられるか(うまくいかなかったときに、次が出てくるか)
代理店との定例で私が見ていたのも、売上の数字そのものではなく、この課題分析から次の打ち手までの流れでした。ここが回っていれば、ある月の成果が外部要因だったとしても、立て直す力があると判断できます。逆にここが止まっていると、数字が良い時期でも不安が残ります。
ここまでが、評価の前提にあたる部分です。実際に何を基準に見て、継続・改善・変更のどれを選ぶのかはEC広告代理店の評価方法|見直しのサインと継続・変更の判断基準に整理しています。この記事を読んだうえで基準を使うと、数字の良し悪しだけに引っ張られにくくなるはずです。
なお、評価ができないまま年数が経つと、成果が出ていても自社に何も残らない状態になります。そちらは成果は出ているのに、なぜ組織力が残らないのかで扱っています。
まとめ
この記事のまとめ
- 評価が難しいのは数字が見えないからではなく、その数字が誰の何によって動いたのか分からないから
- セール・商品力・広告費の増額・モールイベント・自社施策が同時に動けば、代理店の成果だけを切り出すのは難しい
- 最も評価しづらいのは、運用も数値も問題ないのに打ち手が変わらない代理店
- 既存のKPIを守ることと、次の成長を作ることは同じではない
- 切り分けられない前提でも、改善案が出てくるか、その理由を説明できるか、結果から次を考えられるかは見られる
代理店の評価が難しいのは、評価基準を持っていないからだけではありません。数字が揃っていても、それが代理店の働きによるものなのかを確かめきれないからです。そして、この切り分けはおそらく完全にはできません。
だからこそ、成果の大きさだけで判断しないことと、挑戦しづらい状況を自分側が作っていないかを確認することが、評価の前段として必要になります。そのうえで基準を持つと、判断は現実的なものになります。
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次に読む:
なぜ代理店管理は評価されにくいのか|代理店を使いこなせるEC人材の市場価値
この記事で扱わないこと|次にどこを読むか
自分の現在地を整理したい方へ
代理店の成果を数字だけで判断せず、改善のプロセスまで見て評価できることは、EC担当者として評価される力につながります。いまの自分の強みと課題を整理したい方は、EC担当のキャリア現在地診断もご活用ください。所要時間は約3分です。

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