EC担当者コース LEVEL3|見つける
「広告もやっている」「クーポンも打っている」「商品ページも改善している」。それなのに売上が伸びない。メーカーECではよく見るケースです。
こういう時、多くの会社はまず「次の施策」を探しにいきます。広告予算を増やす、施策を追加する、代理店を変更する。しかしその前に必要なのは、自社が今どこで止まっているのかを切り分けることです。止まっている場所が分からないまま施策を足しても、効いたのか効かなかったのかを判断する材料が増えません。
この記事では、メーカーEC担当として現場を見てきた中で感じる「売上が伸びない会社に共通する5つの落とし穴」を、診断チェックの形で整理します。打ち手の中身はメーカーECの売上改善施策を整理した記事に渡し、ここでは原因の切り分けに絞ります。
この記事でわかること
- 集客を増やすだけでは売上が伸びない理由
- 売上停滞を切り分ける4つの切り口(商品力・集客・チャネル・組織)
- 伸びない会社に共通する5つの落とし穴
- 自社がどこで止まっているかを確認する診断チェックリスト
- 現場で着手できる範囲と、経営判断が必要な範囲の分け方
売上が伸びない原因は「施策」ではなく「構造」にある
売上が止まったときに候補として挙がるのは、たいてい次のような施策です。
- 広告を増やそう
- SEOを強化しよう
- クーポンを発行しよう
- 商品ページを改善しよう
どれも有効な施策です。ただし効くかどうかは、今どこが詰まっているかで変わります。同じ広告予算でも、詰まっている場所と一致したときだけ売上に反映されます。だからこの記事は、施策の良し悪しではなく、詰まっている場所の特定から始めます。
集客を増やすだけでは解決しない理由
売上が伸びないと聞くと、真っ先に「集客が足りないのでは」と考えがちです。広告費を増やす、SEOを強化する。どちらも間違いではありません。
しかし私がこれまで見てきた中で、集客を増やしただけで根本的に売上が伸びた会社はほとんどありません。
理由はシンプルです。人が来ても、レビューが不安で買われない。価格戦略がなく、価格競争に巻き込まれる。代理店任せで、なぜ効果が出ないのか誰も説明できない。こうしたボトルネックが残ったまま集客だけを増やしても、広告費に対する費用対効果が悪化するだけです。
言い換えると、集客は穴を塞ぐ手段ではなく、通る量を増やす手段です。漏れている場所が残ったまま量だけ増やせば、漏れる量も一緒に増えます。そこで次に、その「漏れている場所」をどこから探すかを決めます。
売上停滞を4つの切り口で切り分ける
どこが詰まっているかを探すときは、見る場所を先に決めておくと迷いません。私がこれまで見てきた中では、メーカーECの売上はおおむね次の4つの切り口で説明がつきます。
POINT
商品力
商品そのものの魅力やブランド力です。価格競争に巻き込まれにくい商品ほど、広告効率も高くなります。
集客構造
売上を広告だけに依存していないかという視点です。広告だけで集客している企業は、広告費が高騰すると利益が出にくくなります。一方で、SEO・指名検索・CRM・SNSなど複数の集客経路を持つ企業は安定しやすくなります。
チャネル構造
Amazon・楽天・Yahoo!ショッピング・Qoo10など、複数モールを担当してきた経験から感じるのは、「どこで売るか」よりも「どう役割を分けるか」が重要ということです。チャネルごとの役割が明確な企業ほど、売上は安定します。
組織構造
メーカーECでは、ブランド・営業・物流・代理店・EC担当など、多くの関係者が関わります。誰が何を決めるのかが曖昧な企業では、施策が進みにくくなります。
ここから先の5つの落とし穴は、この4つの切り口のどこかに紐づいています。自社がどこに当てはまるかを意識しながら読み進めてください。
なお、この記事は商品・集客・チャネル・組織という事業側の切り口から、どこで止まっているのかを見つけるための記事です。セッション数やCVR、客単価といった数字そのものをレイヤー単位で分解して追いたい場合は、EC売上を数字からさらに細かく分解する方法を併せて読んでください。
売上が伸びない会社に共通する5つの落とし穴
5つの落とし穴
ここからは、私がこれまで見てきたメーカーECの中で、売上が伸びない会社に共通していた5つの落とし穴を診断形式で紹介します。自社がいくつ当てはまるか、確認しながら読んでみてください。
① 代理店任せになっている
私が見てきた中で、売上が伸びないメーカーECに最も多いのがこれです。代理店が悪いわけではありません。問題は、メーカー側が何も知らない状態です。
なぜその施策をやるのか、なぜその予算なのか、なぜその優先順位なのかを説明できない。すると、意思決定まで代理店依存になります。売上は伸びても組織は成長しません。
診断のポイント:代理店からの提案を「なぜそれをやるのか」まで社内で説明できますか。できない場合、これに当てはまります。
重要なのは代理店を使わないことではなく、メーカー側が判断できる状態を作ることです。
② 数字を分解していない
売上だけを見ている会社も危険です。私が売上を確認する時、最初に見るのはセッション数とCVRです。なぜなら、売上は結果だからです。
売上が落ちた時は、まず人が来ていないのか、買われていないのかを分ける必要があります。この分解ができないと、原因が分からないまま施策を打つことになります。
診断のポイント:売上が落ちた時、真っ先にセッション数とCVRのどちらが原因かを確認していますか。売上の増減だけを見ている場合、これに当てはまります。
③ レビューを軽視している
モールECでは、レビューは信頼そのものです。実際、私が経験した中で最も売上インパクトが大きかった施策のひとつがレビュー施策でした。
しかし、レビュー施策は後回しにされがちです。広告には予算を使う、クーポンも配る、でもレビューは放置。モールECでは、レビューは装飾ではなく信頼装置です。
診断のポイント:直近3か月で、レビューを増やすための施策を意図的に行いましたか。「特に何もしていない」場合、これに当てはまります。具体的な施策の作り方は、後述の「次に読む」で扱っています。
④ 価格戦略がない
メーカーECは価格を自由に動かしにくい。これは事実です。自社ECとの整合性、ブランド毀損リスク、販売店との関係。様々な制約があります。
しかし、価格を動かせないことと、価格戦略がないことは別です。重要なのは、価格を下げることではなく、価格のポジションを決めることです。
診断のポイント:自社の価格を「なぜその価格なのか」を説明できますか。「気づいたら最安値に近づいていた」場合、これに当てはまります。
⑤ 意思決定が遅い
モールECは変化が早い世界です。ランキング、検索アルゴリズム、競合施策。常に変わります。その中で、稟議に数週間かかる、判断できる人がいないとなると、どうしても機会損失が発生します。
これまで100社以上のメーカーのEC支援に関わってきましたが、意思決定が速い会社には共通して「やってみないと分からない」という前提があります。私の言い方だと、一回やってみて、失敗だったら2回目はないという進め方です。仮説を立て、許容できる範囲で試し、結果を見る。ダメなら次はやらない、良ければ広げる。この回し方をしている会社は、同じ期間でも判断の回数そのものが多くなります。
逆に、机上で考える時間が長い会社では、市場から反応を受け取る回数が減ります。ECは実際に出してみないと分からない部分が多いため、検討している間は判断材料が増えないままです。
ただし「何でもすぐやればいい」という話ではありません。在庫、価格、ブランドに関わる判断は慎重であるべきです。問題は、やめても取り返しがつく小さな施策にまで100%の確証を求めて止めていないかという点です。
診断のポイント:モール施策の変更判断にかかる時間は、どれくらいですか。「数週間〜1か月」かかる場合、これに当てはまります。
5つの落とし穴を並べると、実は①代理店任せと⑤意思決定の遅さには共通点があります。どちらも「誰が決めるのか」が曖昧なことから生まれる問題です。
売上責任はあるのに権限がない。外部に委託しているのに評価軸がない。こうした組織構造の問題があると、個人がどれだけ頑張っても、意思決定のボトルネックが解消されません。
私はこれまで、施策そのものよりも「誰が何を決めるか」が整理されている会社の方が、結果として売上が安定しやすいと感じてきました。もし①か⑤に強く当てはまる場合、それは施策の問題ではなく組織構造の問題である可能性が高いです。
私が「この会社は伸びるな」と感じる瞬間
POINT
原因の見当がついたあと、そこから実際に改善へ進める会社と、診断したところで止まる会社があります。進める会社で起きていることは、だいたい同じ順番です。
現場から改善案が出てくる。その案に対して、やるかやらないかを誰かが決められる。決まったら、決めた期間のうちに実行される。そして結果を見て、次に広げるかやめるかを決める。この流れがつながっている会社は、まだ数字が伸びていない段階でも「次に試すこと」が常に残っています。
逆に、案は出るのに決まらない、決まっても実行されない、実行しても結果を振り返らないという形でどこか一箇所が切れていると、原因の診断だけが繰り返されます。私が「この会社は伸びるな」と感じるのは、売上の数字を見たときではなく、この流れがつながっているのを見たときです。
診断チェックリスト|あなたの会社はいくつ当てはまる?
ここまでの内容を、簡単なチェックリストにまとめました。当てはまる項目に印をつけてみてください。
- □ 代理店の提案を「なぜやるのか」まで社内で説明できていない
- □ 売上が落ちた時、セッション数とCVRのどちらが原因か即答できない
- □ ここ3か月、レビューを増やす施策を意図的にやっていない
- □ 自社の価格が「なぜその価格か」を説明できない
- □ モール施策の変更判断に数週間〜1か月かかる
3つ以上当てはまった場合、施策を追加する前に、まず構造上の落とし穴を塞ぐことを優先した方がよいと私は考えています。
どこから改善すべきか
チェックリストで当てはまった項目が多いほど、「何から手をつければいいのか」が分からなくなります。ここで意識したいのは、現場の裁量で変えられることと、経営判断が必要なことを分けて考えることです。
レビュー施策、数字の分解、代理店への確認、意思決定のスピードといった項目は、EC担当が現場の裁量で今すぐ着手できます。
現場だけでは変えられない領域
一方で、
・ブランド戦略
・価格の根本方針
・組織体制
・投資判断
といった部分は、現場だけでは変えられません。ここに課題がある場合は、施策の改善ではなく、上位の意思決定者を巻き込む働きかけが必要になります。
「頑張っているのに成果が変わらない」と感じる時ほど、現場の努力ではなく、この経営判断の領域に原因があることが少なくありません。
当てはまった項目が現場で動かせる範囲にあるなら、そのまま打ち手の検討に進めます。何をどの順番で整えるかは、メーカーECの売上改善施策を整理するでまとめています。原因はこの記事で特定し、改善の中身はそちらで決める、という使い分けです。
結論|まずは原因を切り分けることが第一歩
この記事のまとめ
- 売上は施策の結果ではなく構造の結果
- 停滞は商品力・集客・チャネル・組織の4つの切り口で切り分ける
- 共通する落とし穴は、代理店任せ・数字未分解・レビュー軽視・価格戦略なし・意思決定の遅さ
- 3つ以上当てはまるなら、施策追加より先に落とし穴を塞ぐ
- 現場の裁量で動く範囲と経営判断が要る範囲を分けて着手する
メーカーECの売上が上がらない理由は、広告不足でもクーポン不足でもありません。原因は、代理店任せ・数字の未分解・レビュー軽視・価格戦略の不在・意思決定の遅さのどこかにあり、それぞれ商品力・集客構造・チャネル構造・組織構造という4つの切り口に紐づいています。
私自身、売上が伸びた時ほど、派手な施策ではなく、土台づくりができていました。売上は施策の結果ではありません。構造の結果です。
まずはこの記事で、自社がどの落とし穴に当てはまるかを切り分けてみてください。原因が見えたら、次は改善の中身を決める段階です。
この記事で扱わないこと|次にどこを読むか
この記事では、原因を切り分けるところまでを扱いました。次に進む先は、どこで止まっていたかによって変わります。
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