職務経歴書に「代理店管理をしていました」と書いても、それだけでは何をしていた人なのかが伝わりません。毎月の定例に出て進捗を確認していた人も、商品ごとに目的を決めて代理店に依頼し、提案を見て実施可否を判断していた人も、同じ一行になってしまうからです。
私はメーカーEC担当として複数の代理店と仕事をしてきました。その経験から言えるのは、代理店管理が評価につながるかどうかは、自分がどこまで判断していたかで決まるということです。
この記事では、代理店管理の経験がEC担当者のどんな力になるのか、逆に何が身につきにくいのかを整理します。代理店をどう評価するか、どこまで任せるかという話は別の記事にまとめているので、ここでは経験の中身に絞ります。
この記事でわかること
- 代理店管理と、代理店との窓口業務の違い
- 代理店をディレクションしている人が持っている判断軸
- 商品ごとに目的を決めて依頼し、提案を確認するまでの実際の流れ
- 代理店管理で伸びる力と、逆に身につきにくいもの
- 採用する側が「代理店管理の経験」をどう見極めるか
「代理店管理をしていました」だけでは、経験の中身が分からない
代理店管理という言葉は、実態の幅がかなり広いです。狭いほうに寄ると、代理店との窓口業務になります。
提案を受け取って社内に回す。スケジュールを確認する。承認が下りたら代理店に伝える。進捗を聞いて報告する。これはこれで必要な仕事ですが、判断しているのは自分ではありません。この状態が続いても、積み上がるのは調整の経験であって、ECの判断力ではありません。
一方で、同じ「代理店管理」でも、目的を自分で決めて依頼し、出てきた提案を自社の事情に照らして採否を決めている人がいます。この差が、経験としての価値を分けます。
管理できている人は、判断軸を持っている
代理店管理ができているかどうかは、肩書きや担当年数ではなく判断軸を持っているかで分かると考えています。具体的には、次の5つに自分の言葉で答えられる状態です。
- なぜその施策をやるのか
- どの数字を伸ばしたいのか
- どの程度の費用対効果なら実施するのか
- 他の施策と比べて、優先順位は高いのか
- どこまでを代理店に任せるのか
この5つは、代理店が答えを持っていても構いません。ただ、提案された答えをそのまま採用するかどうかを決めるのは発注側です。ここを自分で決めていたかどうかが、後から効いてきます。
実際にどうディレクションしていたか
私の場合、商品ごとに戦略を変えていました。一つ例を挙げます。
ある商品は、市場のボリュームがあり、競合も強い。そのうえで新規顧客の獲得を重視したい。この前提があるので、代理店には「新規顧客の獲得をメインに広告を強化してほしい」と依頼します。
ただ、依頼はここで終わりません。「広告を強化してください」で終わらせると、出てくる提案を評価できなくなります。代理店から出てきた内容に対して、私は次のような点を確認していました。
- どのキーワードでCPCを上げているのか
- 指名検索にどこまで広告費をかけるのか
- そもそも新規顧客の獲得につながる設計になっているか
- 広告以外に、改善できる部分は残っていないか
最後の点は見落とされやすいところです。広告を任せていると、改善の話が広告の中だけで完結しがちになります。商品ページやレビュー、価格、在庫の状況など、広告の外側に先に直すべきものがあれば、そちらが優先になることもあります。
流れとして書くとこうなります。
| 工程 | やること | ここを飛ばすと |
|---|---|---|
| ① 商品戦略 | その商品を、市場・競合・在庫を踏まえてどう位置づけるかを決める | どの商品にも同じ依頼をしてしまう |
| ② 目的 | 新規獲得なのか、既存の効率改善なのかを決める | 提案の良し悪しを判断する基準がない |
| ③ 依頼 | 目的と、避けたいこと(下げたくない指標など)を代理店に伝える | 代理店が得意な施策に寄った提案になる |
| ④ 提案の確認 | キーワード、入札、配分が目的と噛み合っているかを見る | 「提案が来たので実施」になる |
| ⑤ 実施判断 | 想定の費用対効果と、他施策との優先順位で採否を決める | 判断の経験が自分に残らない |
代理店管理を進捗管理だと捉えていると、①②③と⑤が抜け落ちます。残るのは④の確認作業だけで、それも「確認した」という事実しか残りません。
提案をそのまま採用しない
代理店から受けた提案を、そのまま採用しなかったことは何度もあります。
基本的な判断材料は想定ROASです。その施策にいくら使って、どのくらい返ってきそうか。そのうえで、他の施策と比べたときに優先順位が高いのかを見ます。予算は有限なので、単体で見れば悪くない提案でも、他に回したほうがいいという結論になることがあります。
ここで大事なのは、提案を否定することではありません。代理店の提案は、その領域の知見から出てきたものです。見るべきは、それが自社の商品・予算・目的に合っているかどうかで、合わないなら目的を伝え直して作り直してもらうほうが早いこともあります。
なお、この判断を繰り返していくと、代理店そのものをどう評価するかという話にもつながります。そちらはEC広告代理店の評価方法で扱っています。
任せすぎていた時期と、そこで分かったこと
偉そうに書いていますが、私にも代理店に任せすぎていた時期があります。
当時はレポーティングが十分ではなく、代理店から改善案をもらって、こちらはそれを許可する。その程度の関係でした。それでも売上は伸びていたので、「売上が伸びているなら問題ない」と判断していました。
問題が出たのは後になってからです。社内にナレッジがほとんど残っていませんでした。そのため、代理店を変更しようとしたときに、いまやっていることを維持したまま別の会社に移せるのかが分からず、変更そのもののハードルが上がりました。
このときに分かったのは、代理店管理には発注側にも判断できるだけの情報と理解が必要だということでした。任せること自体が悪いのではなく、任せたまま中身を把握していないと、後から動けなくなります。どこまで任せて何を自社に残すかという話はメーカーECはなぜ代理店依存になる?で扱っているので、ここでは経験の話に戻ります。
代理店管理で伸びる力
数字を見る力
一番伸びたと感じるのは、数字を見る力です。
広告運用そのものの知識は、代理店のほうが詳しいのが普通です。張り合う必要はありません。ただ、発注側には別の情報があります。商品の状況、売上、広告、モールの施策、競合、社内の事情、利益、予算。これらを並べて「この数字をどう見るか」を決められるのは、発注側だけです。
代理店が広告の専門家として数字を見るのに対して、こちらは事業全体から同じ数字を見ます。広告のROASが良くても、その商品の在庫や利益率を踏まえると優先度が下がる、ということが起こります。この見方は、代理店と仕事をしていると自然に鍛えられます。
施策を判断する力
提案を受けて、やる・やらない・条件を変えてやる、を決める経験です。毎月のように判断の機会があるので、回数がたまります。想定と結果がずれたときに、なぜずれたのかを考える機会も一緒についてきます。
社内を調整する力
決めた施策は、社内を通さないと実行できません。予算を確保する、商品部門に在庫を確認する、価格の変更に合意をもらう。代理店とのやり取りと同じくらい、社内とのやり取りが発生します。外部と社内の両方を動かす経験は、EC以外でも通用する部分があります。
逆に、身につきにくいのは実務
ここは正直に書いておきます。代理店管理を続けていて身につきにくいのは、自分の手を動かす実務です。
- 広告の管理画面を自分で操作する
- 入稿する
- 細かい運用調整をする
- クリエイティブを制作する
このあたりは外部に任せている分、経験が薄くなりがちです。代理店管理ができる=EC実務を一通りできる、ではありません。転職先によっては自分で手を動かす前提のところもあるので、そこは正直に見ておいたほうがいいと思います。
ただ、実行を任せながら、目的を決める・数字を見る・施策を判断する・優先順位を決める・社内を調整する、という経験を積んでいるなら、それは別の価値があります。どちらが上という話ではなく、積み上がっているものが違うだけです。
採用する側は、どこを見ているか
私が採用する立場で、候補者が「代理店管理をしていました」と言ったら、聞くのは一つです。
「どうやって売上を上げていきますか」
とくにモールECは、使える施策がある程度限られています。だからこの質問への答え方で、見えるものが多いです。
- どの数字から見るのか
- どの施策から考えるのか
- 何を優先するのか
- 広告の話だけで終わるのか、商品やページまで見るのか
- 新規顧客の獲得をどう考えているのか
- 費用対効果をどう見ているのか
答えが具体的なら、自分で判断してきた人だと分かります。同時に、その考え方が自社と合うかどうかも見えます。合う・合わないは優劣ではなく、商品やチャネルによって必要な進め方が違うからです。
逆に言えば、面接で聞かれる前に、自分で答えを用意しておけるということです。経験をどう言葉にするかはEC担当者の職務経歴書の書き方で整理しています。
代理店管理の経験は、評価につながるのか
本当にマネジメントできているなら、つながると考えています。目的を決めて、提案を評価して、実施を判断して、結果を見て次を決める。これは代理店がいてもいなくても必要な力です。
一番気をつけたいのは、代理店マネジメントそのものを代理店に任せてしまっているパターンです。何を改善するかも、どう進めるかも相手が決めていて、こちらは会議に出ているだけ。この状態でも「代理店管理をしていた」とは言えてしまいます。
だから確認したいのは、肩書きではなく自分がどこまでディレクションしていたかです。ここが言えるかどうかで、同じ経験年数でも伝わり方がかなり変わります。
なお、代理店管理の経験があれば転職できる、年収が上がる、という単純な話ではありません。何をもって評価されるのか、そこから何を増やしていくのかはEC担当の市場価値を考える5つの行動で扱っています。
まとめ
この記事のまとめ
- 代理店管理は幅が広く、窓口業務と、目的を決めて判断する仕事がひとまとめになっている
- 管理できている人は、なぜやるか・どの数字を伸ばすか・どこまで任せるかに自分で答えられる
- 提案を評価するには、商品戦略と目的を先に決めておく必要がある
- 伸びるのは数字を見る力・施策を判断する力・社内を調整する力、身につきにくいのは手を動かす実務
- 評価されるのは「代理店管理をしていた」ではなく、どこまでディレクションしていたか
代理店と仕事をしていたこと自体は、良くも悪くもありません。同じ年数でも、提案を受け取って回していた人と、目的を決めて採否を判断していた人では、残っているものが違います。
いま代理店管理を担当しているなら、次の定例で一つだけ試してみてください。提案を受けたときに、その場で「なぜこの施策なのか」「どの数字を動かすのか」を自分の言葉で言ってみる。言えなければ、そこが次に埋めるところです。
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次に読むべき記事
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▶ EC担当のスキルマップ|実行・分析・設計の3つの力で経験を整理する
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