EC担当者コース LEVEL1|知る
メーカーECとは、メーカーが自社で企画・製造した商品やブランドを、自社ECサイトやAmazon・楽天市場などのECチャネルで販売し、事業として伸ばす取り組みのことです。D2C・自社EC・モールECとは、それぞれ「何を表す言葉か」という軸が違います。この記事では、それらの関係を整理したうえで、メーカーECで働く人の仕事までをまとめます。
「メーカーECは、ECサイトを運営する仕事」——EC担当を目指す人の多くが、最初にそうイメージします。私自身も、メーカーECに入るまでは、ECの知識とマーケティングスキルがあれば十分だと考えていました。
実際に働いてみると、そのイメージは大きく変わりました。メーカーECは、ECだけを見ていても成果が出ません。ブランド、営業、商品部、物流、卸先、代理店。それぞれとの整合を取りながら売上を伸ばす仕事だからです。
この記事でわかること
- メーカーECとは何か、EC Career Labでの使い方
- メーカーEC・D2C・自社EC・モールECの違い(比較表)
- Amazon・楽天での販売を一律にD2Cと呼ばない理由
- メーカーECが他のEC事業と構造的に違う点
- メーカーECで働く人の仕事と、キャリアへのつながり
メーカーECとは|自社商品をECチャネルで伸ばす事業
メーカーECとは、自社で企画・製造した商品を、自社ECサイトやAmazon・楽天市場・Yahoo!ショッピングなどのECチャネルで販売し、成長させる事業のことです。
言葉にすると「商品をECで売る仕事」ですが、実務上の中身は、EC専業の事業者や小売業のEC部門とはかなり異なります。最大の違いは、ECが事業全体の一部でしかないことです。ECの売上を最大化することが、必ずしも会社にとっての最適解にならない場面が出てきます。
ECは会社の中で一つの事業として運営しますが、会社から独立して完結する事業ではありません。既存の販路や商品・生産の計画とつながっているため、ECの数字だけで判断できないことが多いのが特徴です。
「メーカーEC」という言葉の使われ方
「メーカーEC」には、業界全体で統一された厳密な定義があるわけではありません。一般的な解説では、メーカー自身が運営する自社ECサイトや、メーカーによる直販ECに近い、狭い意味で使われることもあります。
EC Career Labでは、メーカーでEC事業に携わる人の仕事とキャリアを扱うため、自社ECだけでなく、Amazonや楽天市場などのモールでの販売・運営も含めて「メーカーEC」と呼んでいます。サイト内の記事では、この広い意味で使っています。
メーカーEC・D2C・自社EC・モールECの違い|言葉の「軸」が違う
この4つは、よく並べて語られますが、同じ種類の言葉ではありません。メーカーECは「誰が、どんな事業をしているか」、D2Cは「どんな流通と顧客関係で売るか」、自社ECとモールECは「どこで売るか(販売チャネル)」を表しています。
| 用語 | 何を表す言葉か | 例 | EC Career Labでの扱い |
|---|---|---|---|
| メーカーEC | メーカーが自社の商品・ブランドをECで販売し、事業として伸ばす取り組み | 化粧品メーカーが、自社ECとAmazon・楽天市場で自社ブランドを販売する | このサイトの主題。自社EC・モールを含む広い意味で使う |
| D2C | 中間流通を介さず消費者へ直接販売し、顧客と直接の関係を築くビジネスモデル | ブランドが自社のオンラインストアで直接販売し、購入後も顧客とつながり続ける | メーカーECの中で取られることがある事業モデルの一つ。メーカーEC=D2Cとはしない |
| 自社EC | 自社が管理するECサイト・オンラインストアという販売チャネル | メーカーが運営する公式オンラインストア | メーカーECの販売チャネルの一つ |
| モールEC | ECモールというプラットフォームを利用した販売チャネル | Amazon、楽天市場、Yahoo!ショッピングでの販売 | メーカーECの販売チャネルの一つ。メーカーが運営していても、それだけでD2Cとは呼ばない |
言葉の軸が違うため、1つの販売に複数の性質が重なることがあります。代表的なケースを並べると、次のようになります。
| ケース | メーカーEC | 自社EC | モールEC | D2C |
|---|---|---|---|---|
| メーカーが自社ECで自社ブランドを直接販売し、顧客との関係を築いている | ○ | ○ | - | ○(当てはまることが多い) |
| メーカーが楽天市場に出店し、自社が販売主体として販売している | ○ | - | ○ | △(取引は直販でも、一般にD2Cとは呼ばれないことが多い) |
| メーカーがAmazonにセラー(出品者)として出品・販売している | ○ | - | ○ | △(同上) |
| メーカーがAmazonにベンダーとして商品を卸し、Amazonが販売している | ○ | - | ○ | ×(メーカーから見ると卸取引) |
| 小売業者が他社の商品を自社ECで販売している | - | ○ | - | - |
たとえば、メーカーが自社ブランドの商品を自社ECから消費者へ直接販売していれば、メーカーEC・自社EC・D2Cの3つの性質が重なります。一方、同じメーカーがAmazonで販売していても、取引の形によってはD2Cには当たりません。
メーカーECとD2Cの違い
D2Cとは|中間流通を介さず、顧客と直接つながるビジネスモデル
D2C(Direct to Consumer)は、一般に、メーカーやブランドが企画・製造した商品を、卸や小売などの中間流通を介さずに消費者へ直接販売するビジネスモデルを指します。野村総合研究所(NRI)の用語解説やNTTドコモビジネスのIT用語集でも、自社のECサイトなどを通じて消費者に直接販売するモデルとして説明されています。
直接販売することに加えて、顧客と直接つながり、その関係をブランドづくりや商品改善に生かすことが、D2Cの特徴として挙げられることが多いです。
メーカーECとD2Cは同じ軸の言葉ではない
メーカーECは「誰がEC事業を行っているか」を表す言葉で、EC Career Labが扱う事業領域の名前でもあります。D2Cは「どのような流通と顧客関係で販売するか」を表す言葉です。
そのため、メーカーECの中にD2Cの取り組みが含まれることはあっても、メーカーECとD2Cはイコールではありません。卸や小売店を通じた販売を続けながら、自社ECでD2C的な取り組みをしているメーカーも多くあります。
Amazon・楽天での販売を、一律にD2Cとは呼ばない
Amazonや楽天市場での販売は、取引の形によって位置づけが変わります。
Amazonには、メーカーが自ら出品者(セラー)として販売する形(Amazon出品サービス)と、メーカーがAmazonに商品を卸し、Amazonが販売する「ベンダー」の取引があります。ベンダー取引は、メーカー→Amazon→消費者という流れになるため、メーカーから消費者への直接販売とは整理しにくい取引です。
また、メーカーがモール上で販売主体になっている場合でも、集客の仕組みや顧客とのつながり方はモールのルールの中にあります。そのため、取引としては直販であっても、一般的な業界用語として必ずD2Cと呼ばれるわけではありません。「直接販売だから全部D2C」とは考えない方が、言葉の混乱を防げます。
D2Cの成り立ちや、既存メーカーがD2Cに取り組むときの難しさは、D2Cとは?メーカーECとの違いやビジネスモデルを解説で詳しく扱っています。
メーカーECと自社ECの違い
自社ECは、自社が管理するECサイトやオンラインストアという販売チャネルの名前です。デザインや販促、顧客データの扱いを自社で決めやすい一方、集客は自社で行う必要があります。
メーカーECの立場から見ると、自社ECは複数ある販売チャネルの一つです。自社ECで直接販売し、顧客との関係を築いていればD2Cの性質も持ちますが、自社ECとD2Cは同じ意味の言葉ではありません。小売業者が運営する自社ECもあるためです。
メーカーECとモールECの違い
モールECは、Amazonや楽天市場などのECモールというプラットフォームを利用した販売チャネルです。モールが持つ集客力を使える代わりに、手数料がかかり、ページの見せ方や販促、顧客とのやり取りはモールのルールの中で行います。
メーカーがAmazonや楽天市場の店舗を運営している場合、EC Career LabではメーカーECの業務範囲に含めて扱います。ただし、それだけを理由にD2Cとは断定しません。
自社ECとモールの役割分担は自社ECとモールの違いで、モールごとの特徴はAmazon・楽天・Yahoo!・Qoo10の比較で整理しています。
メーカーECが他のECと違う3つの構造
メーカーECの難しさは、担当者の力量以前に、事業構造そのものから来ています。大きく3つあります。
① ECは事業の一部でしかない
メーカーには、卸・量販店・専門店・直営店といった既存の販路があります。ECはそのうちの一つで、多くの会社では売上構成比としてまだ小さい側です。
そのため、ECだけで判断できることが限られます。ECで売れる施策が、既存販路との関係を壊す場合には実行できません。「ECの数字は良くなるが、会社としてはやらない」という判断が普通に起こる——これが、EC専業との一番大きな違いです。
② 価格を自由に動かせない
ECで最も即効性のある打ち手は価格ですが、メーカーECではここが最も動かしにくい部分です。卸先や実店舗との価格整合があり、ECだけ安く売ることは基本的にできません。ブランド価値を毀損する値引きも避ける必要があります。
結果として、価格以外の要素——商品ページ、レビュー、在庫、配送条件、販促の設計——で勝負することになります。ブランドと売上のバランスをどう取るかは、ECとブランドの関係とは?ブランドを守りながら売上を伸ばすメーカーECの考え方で詳しく扱っています。
③ 在庫と生産のリードタイムに縛られる
自社で製造している以上、売れたからといってすぐに追加生産はできません。生産リードタイムは数週間から数か月に及ぶこともあり、EC側の需要予測が外れると、欠品か過剰在庫のどちらかが起きます。
仕入れ型の小売ECなら発注量の調整で吸収できる部分が、メーカーECでは生産計画の話になります。EC担当が商品部や生産管理と話をする必要が出てくるのは、この構造があるためです。
メーカーEC・D2C専業ブランド・小売ECの事業構造の違い
事業のタイプとして並べると、違いがはっきりします。ここでのD2C専業ブランドは、卸や店舗を持たず、自社チャネル中心で販売するブランドを指します。
| 観点 | メーカーEC | D2C専業ブランド | 小売EC・モール専業 |
|---|---|---|---|
| 商品 | 自社で企画・製造 | 自社で企画・製造 | 他社商品を仕入れ |
| 販路 | 卸・店舗・ECが併存 | 自社チャネル中心 | ECが主戦場 |
| 価格の自由度 | 低い(販路間の整合が必要) | 高い | 中(仕入れ値に依存) |
| 在庫 | 生産リードタイムに縛られる | 生産リードタイムに縛られる | 発注で比較的調整しやすい |
| EC担当の役割 | 社内調整を含む事業運営 | ブランドと顧客体験の設計 | 仕入れ・販売の最適化 |
メーカーEC担当の仕事は「EC運営」だけではない
メーカーEC担当が関わる領域は、会社によって自社EC、Amazon・楽天市場などのモール、広告、CRM、在庫・物流、商品企画、営業、ブランド、代理店管理など多岐にわたります。ただし、これらを一人ですべて担当するわけではありません。企業規模やEC売上の大きさ、組織体制によって、担当する範囲は大きく変わります。職種としての仕事内容はEC担当とは何をする仕事かで整理しています。
この構造の結果として、メーカーEC担当の仕事は、広告運用や商品ページ改善といったEC運用の外側まで広がります。実際に時間を取られるのは、次の3つです。
社内との調整
商品部には新商品の情報とEC向け画像を依頼し、営業部には卸先との価格整合を確認し、物流には出荷キャパを相談する。EC施策の多くは、EC部門だけでは完結しません。「EC担当なのに、こんなに社内調整が多いのか」というのが、私が最初に受けた印象でした。
日々の業務がどう回っているかは、メーカーEC担当の仕事内容とは?一般的なEC担当との違いと求められる役割で具体的に扱っています。
代理店・パートナーとの分担
広告運用やモール運用を代理店に委託しているメーカーは多く、その場合、EC担当の仕事は「自分で運用すること」から「任せた相手の成果を評価し、方向性を決めること」に変わります。提案を受ける側として、何を判断基準にするかを持っていないと、代理店の提案をそのまま通すだけになります。
ブランドと売上の板挟み
短期的に売上を作るには値引きやクーポンが効きますが、続ければブランド価値も利益率も削れます。逆にブランドを守りすぎると、競合がひしめくモールでは埋もれます。この2つを同時に満たす正解はなく、どこで線を引くかを毎回決めることになります。
メーカーECの難しさと面白さ
難しさ|正解が社外の事例にない
ECの成功事例は世の中にあふれていますが、その多くはEC専業かD2Cのものです。販路が併存し、価格が動かせず、在庫が生産に縛られるメーカーECにそのまま当てはめても機能しません。
自社の商品特性・販路構成・組織体制に合わせて組み替える必要があり、その判断は社内にしか材料がありません。ここがメーカーECの一番難しいところです。
面白さ|事業全体を動かせる
裏を返すと、扱える範囲が広いということでもあります。広告の数字だけを追うのではなく、どのチャネルに投資するか、ブランドをどう育てるか、代理店をどう使うか、在庫をどう回すか。事業全体を見て判断できる立場に、比較的早い段階で立てます。
この経験は、EC担当としての市場価値にも直結します。運用の実務スキルは他社でも身につきますが、事業として構造を組み立てた経験は、代替が効きにくい部分だからです。
メーカーECで活躍する人の共通点
成果を出している人は、マーケティングや広告運用が突出して得意な人とは限りません。共通しているのは、全体最適で考えられることです。ブランド・営業・物流・代理店・経営、それぞれの立場で何が制約になっているかを理解したうえで、落としどころを設計できる人ほど成果を出しています。
メーカーECでつまずきやすいポイント
- EC専業の成功事例をそのまま持ち込み、販路や価格の制約で実行できずに止まる
- ECの売上だけを目標にしてしまい、既存販路や利益との衝突に気づかない
- 社内調整を「本業ではない雑務」と捉えて、必要な連携が遅れる
- 代理店に運用を任せたまま、評価する基準を自分で持たない
- 売上の伸びだけを追い、生産リードタイムを踏まえた在庫の準備が間に合わない
メーカーECで働く人のキャリア
メーカーECの仕事は、チャネルを横断して判断し、社内外を動かす経験が積みやすい仕事です。どの範囲まで任されているかによって、評価や次の選択肢が変わります。
EC担当に求められる力はEC担当者に必要なスキルと、何ができれば評価されるのかで、役職ごとの年収の目安はメーカーEC担当者の年収相場で、任される範囲の広がりと進路の全体像はEC担当者のキャリアマップでまとめています。
自分がいまどの段階にいるかを確かめたいときは、EC担当のキャリア現在地診断で、会社の環境と本人の経験を分けて整理できます。
この記事で扱わないこと|次にどこを読むか
この記事の役割は、メーカーECという事業の構造と、担当者の仕事の広さを掴むことです。その先は、それぞれ別の記事で扱っています。
- そもそもEC業界全体がどう成り立っているか
ECとは何か?EC業界構造をわかりやすく解説 - EC担当という職種の仕事内容とキャリア
EC担当とは何をする仕事?仕事内容・スキル・キャリアを解説 - メーカーECで売上が伸びない原因を診断したいとき
メーカーECの売上が伸びない原因を診断する|5つの構造的な落とし穴とチェックリスト - D2Cの成り立ちと、メーカーがD2Cに取り組むときの難しさ
D2Cとは?メーカーECとの違いやビジネスモデルを解説 - 自社ECとモールをどう使い分けるか
自社ECとモールの違いとは?メーカーEC担当者が知っておくべき使い分けの考え方
まとめ
この記事のまとめ
- メーカーECとは、メーカーが自社の商品・ブランドをECチャネルで販売し、事業として伸ばす取り組み。EC Career Labでは自社ECとモールを含む広い意味で使う
- メーカーEC(誰が・どんな事業か)、D2C(どんな流通と顧客関係か)、自社EC・モールEC(どこで売るか)は、言葉の軸が違う
- Amazon・楽天での販売は、取引の形によって位置づけが変わり、一律にD2Cとは呼ばない
- ECは事業の一部でしかなく、既存販路・価格・生産という3つの制約がかかる
- 担当者の仕事は、社内調整・代理店マネジメント・ブランドと売上の線引きまで含み、範囲は会社によって変わる
メーカーECは、ECサイトを運営する仕事ではありません。ブランドを守りながら売上を伸ばし、事業全体を成長させる仕事です。必要なのはマーケティングや広告運用の技術だけでなく、ブランド戦略・価格・組織・代理店をつなげて考える構造理解です。ここを掴んでおくと、この先の学習で扱う個別のテーマが、すべて同じ地図の上に載ってきます。
参考:経済産業省「令和6年度 電子商取引に関する市場調査」(2024年の国内BtoC-EC市場は26.1兆円、物販系分野のEC化率は9.8%)、野村総合研究所(NRI)の用語解説、NTTドコモビジネスのIT用語集、Amazon出品サービス
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