「EC業界はこれからも伸びるのか」「ECの経験は、この先も仕事につながるのか」。EC担当として働いていると、一度は考えるテーマだと思います。
この記事では、まず公的な統計でEC市場の現状を確認し、そのうえで市場の話と、EC担当者個人の仕事の話を分けて整理します。AIによって仕事の進め方が変わっていく部分についても、現時点で言えることに絞って書きます。
この記事でわかること
- 経済産業省の調査で確認できる、日本のEC市場の現状
- 「EC市場の将来性」と「EC担当者の将来性」を分けて考える理由
- AIでEC業務のどこが速くなり、人が何を考えるのか
- これから経験しておきたいこと
- メーカーECが「売る場所」から広がる可能性
EC業界に将来性はある?私は「ある」と考えている
「EC業界って将来性ありますか」と聞かれたら、私は迷わず「あると思う」と答えます。そのときに使う言葉はいつも同じで、「あなたがこれからECで買い物しなくなると思いますか」です。
仮にこの先、AIが自分に合った商品を探してくれたり、購入の手続きを代わりに進めてくれたりするようになったとしても、その取引自体はEC上で行われる可能性があります。買い方の入り口が変わっても、電子商取引そのものがなくなるとは考えにくい、というのが私の見方です。
ただ、ここで止めてしまうと話が雑になります。EC市場に将来性があることと、EC担当者という仕事の将来性は、同じではありません。市場が伸びても、その中で求められる役割は変わっていきます。この記事ではそこを分けて見ていきます。
データで見る日本のEC市場
まず客観的な数字を確認します。経済産業省が2025年8月26日に公表した令和6年度電子商取引に関する市場調査によると、2024年の日本国内のBtoC-EC(消費者向け電子商取引)市場規模は26.1兆円で、前年比5.1%増でした。
| 年 | BtoC-EC市場規模 |
|---|---|
| 2022年 | 22.7兆円 |
| 2023年 | 24.8兆円 |
| 2024年 | 26.1兆円(前年比5.1%増) |
同じ調査では、BtoC-ECのEC化率は9.8%(前年比0.4ポイント増)とされています。この数字を読むときに注意したいのは対象範囲で、調査ではEC化率の算出対象を、BtoC-ECについては物販系分野としています。つまり「日本のEC化率は9.8%」と一括りにするのは正確ではなく、物販系分野を対象としたBtoC-ECのEC化率が9.8%、という読み方になります。市場規模の26.1兆円のほうは、物販系に加えてサービス系・デジタル系を含むBtoC-EC全体の数字です。
ちなみに同じ調査では、BtoB-EC市場規模は514.4兆円(前年比10.6%増)、BtoB-ECのEC化率は43.1%とされています。企業間の取引のほうが電子化は進んでいます。
このデータから言えること・言えないこと
言えるのは、ここ数年で電子商取引の規模が拡大してきたという実績です。言えないのは、今後も同じペースで伸び続けるかどうか。過去の推移から将来の成長率を導くことはできません。この記事で扱うのは、あくまで「これまでの実績」と「私の見方」です。
私自身は、ECで買うという行動が、特別な購買方法ではなく、さらに日常の買い物の一部になっていくのではないかと考えています。これは統計から導いた結論ではなく、実務を通しての見方です。
市場が伸びても、EC担当者の仕事が同じとは限らない
ここが今回いちばん伝えたいところです。市場の規模と、その市場で働く人の仕事内容は、別々に変わります。
EC市場が拡大しても、ひとつの会社でEC運営に必要な作業量が同じだけ増えるとは限りません。ツールが増え、外部に任せられる範囲も広がりました。そこにAIによる効率化が加われば、同じ仕事を進めるために必要な人数や役割の組み合わせも変わっていく可能性があります。
だから私は、「EC市場が伸びる=EC担当者の将来性も高い」とは考えていません。見るべきなのは市場規模ではなく、自分がその市場の中でどんな仕事をしているか、だと思っています。
実務をしていて感じるのは、ECを始めた頃に比べてツールも支援会社も増え、専門性を持つ人も増えたということです。同時に、短期的に数字を動かすテクニックの情報も増えました。そういう環境だからこそ、流行りの手法を追うより、顧客と商品を見ながら何をするかを決める部分が効いてくると感じています。
AIでEC担当者の仕事はどう変わるのか
AIについては、「仕事がなくなる」という話ではなく、「進め方が速くなる」という実感で捉えています。実際、情報の整理や下書き、分析の下ごしらえにAIを使うと、以前より早く形になります。
一方で、人が担う部分として私が重要だと考えているのは、分析結果を見て、最終的に何をするかを判断することです。AIに分析させること自体はゴールではありません。分析して、課題や機会を考えて、施策を決めて、実行して、結果を見る。この流れのどこでAIを使うか、という話だと思っています。
現在の実務での使い分けを並べると、たとえば次のようになります。AIにできること・人にしかできないことを線引きする表ではなく、いま私が使っている範囲の例です。
| 業務 | AIを使いやすい場面 | 担当者が考えたいこと |
|---|---|---|
| 情報整理・レポート | 集計や要約の補助、体裁づくり | その数字から何を判断するか |
| 分析 | データの整理、原因候補の洗い出し | 何を課題と見て、どれから手をつけるか |
| 商品説明・原稿 | 下書き、構成の整理、表現の案出し | ブランドや商品のニュアンス、最終的な表現 |
| 施策案 | アイデア出し、比較案の作成 | 優先順位と、実行するかどうかの判断 |
| 調査 | 競合や市場情報の下調べ | 自社の状況に当てはまるかどうかの確認 |
商品説明については、私は人のほうがうまく作れる場面もあると感じています。下書きや整理はAIで速くなりますが、商品やブランドのニュアンスを踏まえて仕上げるところでは、まだ人の判断が残ります。
これから経験しておきたいこと
今後5年、10年を考えても、ECという仕事の本質が完全に別物になるとは考えていません。売れる状態をつくるために、数字を見て、考えて、動かす。そこは変わらないと思います。
そのうえで、私がこれから重要になると見ているのは、次のような経験です。断定ではなく、見立てとして読んでください。
AIを使って施策の実行スピードを上げること。データを分析すること。顧客をより細かく捉えること。適したセグメントに合わせて販促を考えること。そして、結果を見て次の施策を判断すること。
どの業務でどの力を使っているかを棚卸ししたい場合はEC担当のスキルマップ、それが自分の目指すキャリアでどう効いてくるかはEC担当のスキルの価値は目指すキャリアで変わるで扱っています。この記事では、将来の変化に対して何を経験しておくか、という文脈に絞ります。
自分で判断する経験が少ないなら、AIを壁打ち相手にしてみる
いま見直す価値があると思うのは、自分で判断して実行する機会が少ない状態です。指示された施策を実行することが中心だと、判断する経験は増えていきません。
そういうときに、AIを壁打ち相手に使うのはひとつの方法です。たとえば売上が落ちたとき、こんな進め方ができます。
AIを壁打ちに使う進め方の例
- 売上が落ちた原因の候補を、まず自分で考えてみる
- 同じ条件をAIにも渡して、原因候補を出してもらう
- 自分の仮説と比べて、抜けていた視点を確認する
- 確かめるために必要なデータを見る
- 何をするかは自分で決める
ポイントは、AIに判断してもらうのではなく、自分が判断するための材料を増やすために使うことです。出てきた答えをそのまま採用すると、判断の経験にはなりません。
メーカーECは「売る場所」から広がる可能性がある
メーカーにとってのECは、商品を売るチャネルです。ただ今後は、それに加えて顧客の行動を把握できるデータの接点としての意味が強くなる可能性があると考えています。
何が検索され、どのページが見られ、どの組み合わせで買われ、どれくらいの期間でリピートされるのか。どの施策にどの層が反応したのか。こうした情報は、卸や店頭を通した販売だけでは見えにくい部分です。それを販促の改善だけでなく、商品企画や品揃えの検討につなげていくことも考えられます。
ただし、取得できるデータはプラットフォームや自社ECの作り、契約内容、社内のシステムによって変わります。すべての会社で同じようにできるわけではありません。あくまで、メーカーECの役割が広がる可能性がある、という話として捉えてください。メーカーECの位置づけそのものはメーカーECとはで整理しています。
「市場」ではなく「自分の仕事」を見る
市場の数字は、自分の仕事がどうなるかまでは教えてくれません。将来性を考えるなら、次の4つを自分に当ててみるほうが具体的です。
ECの将来性を考える4つの問い
- AIで速くできる仕事はどれか
- 自分で判断している仕事はどれか
- データから課題を考えているか
- 次に経験したい仕事は何か
ここで整理した「次に経験したいこと」を、どう取りにいくかはEC担当の市場価値を考える5つの行動で扱っています。
ECで買うという行動は、これからも残ると私は考えています。一方で、そのECを運営する人の仕事は変わっていきます。だから「EC経験があるかどうか」ではなく、AIも使いながら何を考え、何を判断し、何を実行してきたか。そこを増やしていくことが、結果として自分の仕事を続けやすくするのだと思います。
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