EC担当者コース LEVEL2|回す
「メーカーEC担当って何をする仕事なの?」
EC業界に興味を持った方や、これからメーカーECへ転職を考えている方からよく聞かれる質問です。
求人票を見ると、売上管理、広告運用、CRM、データ分析といった業務が並んでいます。もちろん間違いではありません。しかし実際にメーカーECで働いてみると、この説明だけでは伝わらない部分があります。
それは、社内の複数部門と、社外の複数チャネル・複数の利害関係者を同時に調整する仕事だということです。自社ECだけを運営する担当や、代理店側でEC支援を行う担当とは、日々発生する調整の種類がかなり違います。
この記事では、メーカー企業でEC担当として働いてきた実務経験をもとに、メーカーEC担当だからこそ発生する仕事・難しさ・そこで得られる経験価値を整理します。
この記事でわかること
- メーカーEC担当と一般的なEC担当の違い
- メーカーだからこそ発生する7つの仕事
- 価格統制・チャネルコンフリクトという固有の制約
- 社内の意思決定が遅くなりやすい理由
- この経験が市場価値にどうつながるか
メーカーEC担当と一般的なEC担当は何が違うのか
EC担当という職種そのものの仕事内容(売上管理・広告運用・商品ページ改善・データ分析など)は、自社EC専業の会社でも、代理店でも、メーカーでも大きくは変わりません。EC担当者全般の仕事内容は別記事で詳しく解説していますので、そちらもあわせてご覧ください。
違いが出るのは、その業務を「誰と」「どんな制約の中で」進めるかです。メーカーの場合、EC担当の意思だけで完結する業務はほとんどありません。ブランドの世界観は商品企画部門が管理し、価格は営業部門や既存の卸・販売店との関係に縛られ、在庫は物流部門の都合に左右されます。
つまりメーカーEC担当は、EC専門職であると同時に、社内の各部門と社外の流通構造を橋渡しする役割を担っています。ここから先は、この「メーカーだからこそ」の部分に絞って解説します。
メーカーEC担当と一般的なEC担当の違い(早見表)
| 観点 | 一般的なEC担当 | メーカーEC担当 |
|---|---|---|
| チャネル | 担当する売り場が中心 | 自社EC・Amazon・楽天など複数を横断して管理 |
| 価格 | 自社判断で動かしやすい | 卸・実店舗との整合が必要で自由に動かせない |
| 在庫 | 発注で調整しやすい | 生産計画と連動し、物流部門との連携が必要 |
| ブランド | EC側で決められる範囲が広い | 商品企画・ブランド部門の管轄と調整する |
| 既存流通 | 基本的に考慮不要 | 卸との衝突(チャネルコンフリクト)が発生する |
| 実行体制 | 自分または社内で完結しやすい | 代理店マネジメントの比重が大きい |
基本業務は一般的なEC担当と共通する部分も多い
売上管理、商品ページ改善、広告運用、CRM施策、データ分析といった基本業務は、メーカーECでも変わらず発生します。数字を確認しながら課題を見つけ、リピート購入につながる施策を考え、感覚ではなく数字で判断する。この部分の詳しい内容は、EC担当の基本的な役割で解説している内容とほぼ共通しています。
この記事では基本業務の説明は最小限にとどめ、メーカーEC特有の仕事内容に紙面を使います。
メーカーEC担当だからこそ発生する仕事
Amazon・楽天・自社ECなど複数チャネルの管理
メーカーEC担当は、自社ECだけを見ていれば済むわけではありません。私自身、Amazon・楽天市場・Yahoo!ショッピング・Qoo10の4モールを同時に担当していましたが、チャネルごとに求められる打ち手はまったく違います。楽天はイベント活用、Amazonは検索での見つけられ方、自社ECはブランド体験そのものです。
難しいのは、それぞれのチャネルを個別最適で運用すると、チャネル間で顧客の奪い合いや価格の不整合が起きることです。全チャネルを俯瞰した上で、どこにどの役割を持たせるかを設計する視点が必要になります。
営業部門との調整
メーカーには、EC以外にも卸や小売店を通じた営業チャネルがあります。ECで大きくキャンペーンを打つと、営業部門から「取引先への説明はどうするのか」という声が上がることがあります。ECの数字だけを見て動くと、営業部門との関係がこじれることがあるため、事前の共有や合意形成が欠かせません。
マーケティング・ブランド部門との調整
商品ページの表現ひとつをとっても、マーケティング部門やブランド部門が管理しているトーン&マナーとの整合性が求められます。EC担当としては「売れる表現」を追求したくなりますが、それがブランドの世界観を損なうと判断されれば、修正を求められます。売上と、ブランドという中長期の資産のどちらを優先するかは、単純な正解がない調整です。
また、新商品の情報はEC担当が最初に触れるわけではなく、商品企画部門から降りてくる形が一般的です。EC側の意見を商品企画に反映させたい場合は、こちらから働きかける必要があります。
物流・在庫との連携
ECでどれだけ売る計画を立てても、在庫が確保できなければ絵に描いた餅です。物流部門は複数チャネル(卸・直営店・EC)への在庫配分を担っており、EC側の希望だけを優先してもらえるとは限りません。セール時期には、いつまでにどれだけの在庫を確保してもらう必要があるかを、通常の業務より前倒しで調整する必要があります。
価格統制という難しさ
メーカーECは、価格を自由に動かしにくい仕事です。自社ECだけ安くすると、卸を通じて販売している小売店から反発が出ます。逆にモールだけ高くすると、モール内の競争力を失います。全チャネルの価格バランスを見ながら、値引きではなく「価格のポジション」をどう作るかを考える必要があります。
既存流通・卸とのチャネルコンフリクト
メーカーには、EC以前から取引している卸や小売店が存在します。ECで売上を伸ばすことは、見方によっては既存の取引先の売上を奪う行為にもなり得ます。ここを軽視すると、EC担当が社内で孤立します。既存流通の担当者と対立するのではなく、「ECで新しい顧客層を取り込む」「既存店舗への送客も設計する」といった形で、共存できる立て付けを作る調整力が求められます。
代理店マネジメント
広告代理店や運用代行会社と組んで仕事を進めるケースも多くあります。ただし、代理店の提案をそのまま実行するだけでは、社内の他部門との調整を代理店が代わりにやってくれるわけではありません。代理店には施策の実行を任せつつ、社内調整はEC担当自身が担うという役割分担が必要になります。
なぜメーカーECでは社内の意思決定が遅くなりやすいのか
ここまで見てきたように、メーカーEC担当は営業・マーケティング・物流・既存流通という複数の利害関係者に囲まれています。EC単体で完結する意思決定はほとんどなく、何かを変えるたびに関係部門への説明と合意形成が必要になります。
モールのアルゴリズムやランキングは日々変わるのに、社内の合意形成には数週間かかる。このスピード差が、メーカーEC担当が最も苦しむポイントだと私は感じています。だからこそ、日頃から関係部門と信頼関係を作り、緊急時に素早く動ける状態を用意しておくことが重要になります。
私がメーカーECに入って驚いたこと
メーカーECに入る前は、広告運用や商品ページ改善が中心の仕事だと思っていました。しかし実際は違いました。特に代理店を活用していない会社では、想像以上に実務量が多く、商品登録、画像差し替え、在庫確認、広告設定、データ集計といった細かい業務も自分でこなす必要がありました。
それ以上に驚いたのは、EC以外の部門との調整に想像以上に時間を使うことでした。分析や打ち手の検討そのものよりも、「なぜこの施策をやる必要があるのか」を営業や商品企画に説明し、納得してもらうことに多くの時間を使っていました。ECは売上を作るために必要な仕事が非常に多い職種であり、その半分近くは、EC以外の人を動かすための仕事だと感じています。
メーカーEC担当に求められる「事業視点」
ここまでの内容から分かるように、メーカーEC担当に必要なのは、EC単体の知識だけではありません。自社の商品がどう作られ、どう流通し、どう営業されているかという事業全体の構造を理解した上で、ECをその中にどう位置づけるかを考える視点です。
私は、EC施策を提案する時に「この施策は営業・商品企画・物流のどこに影響するか」を先に整理してから話すようにしていました。EC側の理屈だけで提案すると、関係部門から反発を受けやすくなります。事業全体への影響を織り込んで提案できる人ほど、社内での意思決定が通りやすくなると感じています。
この経験が市場価値・キャリアにどうつながるか
メーカーEC担当の市場価値は、単純な作業量では決まりません。私は、市場価値は成果×再現性×組織を通す力で決まると考えています。中でもメーカーEC担当が強みにできるのは、「組織を通す力」の部分です。
複数部門・複数チャネル・既存流通という制約の中で成果を出した経験は、自社EC専業や代理店では得にくい経験です。転職市場では、「施策を実行できる人」よりも「複数の利害関係者を調整しながら事業を前に進められる人」の方が評価される場面が多いと感じています。メーカーECで得た社内調整の経験は、EC事業責任者やEC戦略設計といった、より事業寄りのキャリアに進む際の強みになります。
一般的には、EC運用担当からEC担当者、ECマネージャー、EC事業責任者という流れが多いですが、必ずしも管理職になる必要はありません。重要なのは肩書きではなく、どれだけ事業に影響を与えられるかです。
結論|メーカーEC担当は「制約の中で事業を動かす人」
この記事のまとめ
- 基本業務は一般的なEC担当と共通するが、進め方の制約が大きく違う
- 複数チャネル管理・価格統制・チャネルコンフリクトはメーカー固有
- EC担当の意思だけで完結する業務はほとんどない
- だから社内調整と代理店マネジメントの比重が大きくなる
- 制約の中で成果を作る力が、そのまま市場価値になる
メーカーEC担当は、広告運用担当でも、商品登録担当でもありません。営業・マーケティング・物流・既存流通という複数の制約の中で、ECという手段を使って事業を前に進める仕事です。
一般的なEC担当の仕事内容を知りたい方はEC担当とは何をする仕事?を、メーカーEC特有の難しさと、そこで得られる経験価値を理解したい方は、この記事を読み返していただければと思います。EC市場は今後も拡大していきますが、市場価値が自動で上がるわけではありません。制約の中で成果を作る力を理解できる人ほど、メーカーEC担当としての価値は高くなっていくと思います。
この記事で扱わないこと|次にどこを読むか
▶ EC担当とは何をする仕事?仕事内容・スキル・キャリアを解説
▶ メーカーEC担当の市場価値とは?評価される人材の共通点を解説
EC担当の役割を構造で理解する フロント・バック・インターフェースという3つの機能から整理
はじめてのメーカーEC講座|STEP 2
この記事は「EC担当者の仕事を知る」STEPの一部です。
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メーカーEC担当の1日を公開|仕事内容・残業時間・忙しさの実態
自分の現在地を整理したい方へ
制約の中で社内を動かし、事業を前に進めた経験は、EC担当者として評価される力に直結します。いまの自分の強みと課題を客観的に把握したい方は、EC担当のキャリア現在地診断もご活用ください。所要時間は約3分です。

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