「このままEC担当を続けていいのだろうか」と考えたことがある人は、少なくないと思います。目の前の仕事は回っている。ただ、この先どこへ向かっているのかが見えない、という状態です。
こういうとき、まず「やりたいこと」を決めなければいけない気がします。5年後どうなりたいか、どんなキャリアを目指すのか。けれど、それが出てこないから止まっているわけで、順番としては逆だと思っています。
先に見るのは、いまどんな仕事をしていて、どんな経験をしてきたかです。そこが見えると、次に何を増やしたいかが考えられるようになります。この記事では、その整理のしかたを書きます。
この記事でわかること
- キャリアの方向を、最初から決めなくていい理由
- 「現在地」を実際の仕事内容から見る方法
- EC経験の年数だけでは現在地が分からない理由
- やりたいことが分からないままでも進められるという考え方
- 今の会社で経験を増やす・転職する・別の領域を見るという選択肢の考え方
キャリアの方向は、最初から決まっていなくていい
私自身、最初から明確なキャリアプランを持っていたわけではありません。
就職を考えたときに最初にあったのは、「ECに強い会社に入って学びたい」くらいの気持ちでした。そこから、プラットフォーム側に行くのか、メーカー側に行くのかで迷いました。メーカー側を考えるようになってからも、自分は何を売りたいのか、何なら興味を持って仕事ができるのかを考えていました。
EC担当からEC責任者へ、その先はこう進む、という道筋を先に引いていたわけではありません。経験しながら、その時点で次の選択肢を考えてきたというのが実際のところです。
だから、いま方向が決まっていないこと自体は、問題ではないと思っています。問題になりやすいのは、決まっていないことを理由に、現在地を見ないまま止まってしまうことです。
相談されたとき、最初に聞くのは「いまどんな仕事をしていますか」
EC担当の方からキャリアの相談を受けるとしたら、私が最初に聞くのは「どんなお仕事をされていますか」です。
「何をやりたいですか」「5年後どうなりたいですか」とは聞きません。そこから始めると、答えられないまま終わるか、それらしい言葉を探すだけになってしまうからです。
先に現在地を見ます。いま何を任されていて、どこまで自分で決めていて、どんな数字を見ているのか。ここが具体的になるほど、「この部分はもっとやりたい」「この範囲は物足りない」といった感覚が出てきます。やりたいことは、現在地の外から降ってくるものではなく、やってきたことの中から出てくることが多いと感じています。
現在地は「実際に何をしているか」で見る
現在地を見るといっても、自己分析をする必要はありません。実際の仕事内容を書き出すだけです。次の項目に答えてみると、だいぶはっきりします。
| 見るところ | 確認すること |
|---|---|
| 担当業務 | どんなEC業務を担当しているか(受注、ページ、広告、CRM、商品登録、分析など) |
| チャネル | 自社EC、楽天、Amazon、Yahoo!など、どこを担当しているか |
| 判断の範囲 | どこまで自分で判断しているか。どこから上司や代理店が判断しているか |
| 見ている数字 | 売上だけか、CVRや客単価、広告の効率、利益まで見ているか |
| 経験した施策 | これまでどんな施策を実行したか。企画から関わったのか、実行だけか |
| 任されている範囲 | 予算、商品、価格、販促のうち、何について決められるか |
| 説明できること | その結果がなぜそうなったのかを、どこまで説明できるか |
この中でとくに効くのが判断の範囲です。同じ「EC担当」でも、提案を受けて実行する立場なのか、やるかどうかを決める立場なのかで、積み上がる経験はかなり変わります。
書き出してみると、思っていたより任されていることもありますし、逆に実行だけで終わっていたと気づくこともあります。どちらでも構いません。ここは評価の場ではなく、次を考えるための材料集めです。言葉にするのが難しいときは、EC担当者の職務経歴書の書き方で、担当範囲や裁量をどう書くかを整理しています。
「EC経験◯年」だけでは、現在地は分からない
ECの仕事は、本当に範囲が広いです。受注処理から広告運用、商品企画に近いところまで、同じ職種名の中に入っています。だから「この先が見えない」と感じるのは、自然なことだと思っています。
迷いやすいのは、いまのスキルが別の会社でも通用するのか分からないというところです。たとえば次のような状態だと、年数があっても自分に何ができるのかを説明しにくくなります。
- 手を動かす作業が中心で、企画や判断に関わっていない
- 自分の仕事が売上にどう効いているのか分からない
- 施策の良し悪しは代理店が判断している
- 最終的な判断は上司がしている
これは能力の問題ではなく、任されている範囲の話です。「EC担当として働いている」とは言えても、「自分はECで何ができるのか」が答えにくい。この状態がしばらく続くと、キャリアの方向も見えにくくなります。
何をもって評価されるのかという話はEC担当の市場価値とは何かで、そこから何を増やしていくかという話はEC担当の市場価値を考える5つの行動で扱っています。この記事では、まず現在地を見るところまでに絞ります。
やりたいことが分からなくても、進められる
正直に書くと、私も「いま自分がやりたいことをやっている」という強い感覚で働いているわけではありません。
仕事を続ける中で「これは楽しいな」と思える部分があって、結果として「この仕事についてよかった」と思えている。そのくらいの感覚です。最初に見つけた目標に向かってまっすぐ進んできた、という話ではありません。
だから「やりたいことが分からないなら、やりたいことを探しましょう」とは書きません。順番としては逆で、経験が増えると、好き・嫌い・楽しい・苦手・もっとやってみたいが見えてきます。分析を任されたときに面白いと感じるのか、人を動かすほうが向いていると感じるのか。やってみないと分からない部分は、どうしても残ります。
やりたいことが決まっていない状態でも、キャリアは進められます。決めてから動くのではなく、動きながら決まっていくほうが、実際には多いと思います。
次に、どんな経験を増やしたいかで考える
現在地を書き出したら、次は「どの部分を増やしたいか」を考えます。目標を立てるというより、足りないところを埋めるイメージです。
実行は経験してきたから、次は企画から関わりたい。広告は見ているが利益までは見ていないから、そこを持ちたい。チャネルが一つだけだから、別のチャネルも触ってみたい。このくらいの粒度で十分です。
そこまで出てくると、選択肢が具体的になります。
- 今の会社で経験を増やす:その経験を取りにいける環境なら、転職しなくても積み上がる
- 転職する:今の会社では任されない範囲が、別の会社では標準ということもある
- 別のEC領域を見る:メーカー側と支援側、モールと自社ECなど、同じECでも経験の質が変わる
どの選択肢にどんなルートがあるのかは、EC担当のキャリアマップで全体像を整理しています。
転職を考えるときに、見ておきたいこと
転職については、私は否定的に考えていません。自分の環境が好転すると思えるなら、それは良い転職だと思っています。いまの環境を変えたいという気持ちも、無理に抑える必要はありません。
そのうえで、決める前に自分に聞いておきたいことがあります。
- その先で、どんな仕事と経験ができそうか
- 年収はどう変わる可能性があるか
- この先のキャリアにどうつながりそうか
- どんなリスクがあるか
気持ちを無視して損得だけで決める必要はありませんし、逆に勢いだけで決める必要もありません。環境を変えたいという感情を認めたうえで、その選択で仕事・経験・年収がどう変わりそうかを並べて見る。それで納得できるなら、進めばいいと思っています。
なお、いますでに「辞めたい」という気持ちのほうが強い場合は、何がネックになっているのかを先に切り分けたほうが早いです。そちらはEC担当を辞めたいと思ったときに整理したいことで扱っています。
昔の自分に「ECを続けるべきか」と聞かれたら
もし当時の自分から「ECを続けるべきか」と聞かれたら、私は「続けるべき」と答えると思います。
以前は、人のキャリアを支える仕事がしたいと考えて、大学職員を目指していた時期もありました。結果としてECの仕事を続けてきて、いまはこの仕事を選んでよかったと思っています。理由の一つは、本当に多くの人と関わることができたことです。社内の他部署、代理店、モールの担当者、取引先。一人で完結する仕事ではないぶん、関わる人の幅が広い。
ただしこれは、私自身の振り返りです。だから全員がECを続けるべきだ、という話ではありません。合うかどうかは人によって違いますし、ECの中でも領域によってまったく違う仕事になります。
まとめ
この記事のまとめ
- キャリアの方向が決まっていないこと自体は問題ではない
- 先に見るのは「やりたいこと」ではなく、いまどんな仕事をしているか
- 現在地は、担当業務・チャネル・判断の範囲・見ている数字・任されている範囲で見る
- 経験年数ではなく、どこまで自分で判断してきたかで説明できることが変わる
- 次に増やしたい経験が出てくると、現職・転職・別領域という選択肢が具体的になる
ECを続けるのか、転職するのか。いますぐ答えを出さなくても大丈夫です。
まず、いまどんな仕事をしていて、どんな経験があって、どこまで自分で判断しているのかを書き出す。そのうえで、次にどんな経験を増やしたいかを考える。それが決まれば、今の会社で取りにいくのか、環境を変えるのかという話になります。
順番が逆になると、答えの出ない問いの前で止まり続けることになります。迷ったときほど、目の前の仕事から見ていくほうが前に進みやすいと思っています。
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