EC担当者コース LEVEL5|設計・説明する
「ROASが良いチャネルにもっと予算を寄せるべきでは」——EC担当者から責任者に近づくと、こうした議論に関わる機会が増えます。実際、ROASは見やすく説明もしやすい数字なので、予算配分の根拠として使われがちです。
しかし、ROASだけを根拠に予算配分を決めると、判断を誤ることがあります。ROASが高いチャネルが、必ずしも「もっと投資すべきチャネル」とは限らないからです。
この記事では、チャネル間の予算配分と、月次・年間の予算計画という2つの場面に分けて、EC担当者が実務で使える予算配分の判断軸を解説します。
この記事でわかること
- 「ROASが高い=予算を増やすべき」が誤りになるケース
- チャネル間の予算配分を「市場規模×CPA」で考える方法
- 月次・年間予算を「売上目標×トレンド×ROAS」で考える方法
- 上司・経営層に予算配分を説明するときの整理の仕方
なぜ「ROASが高い=予算を増やすべき」ではないのか
ROASは「投下した広告費に対してどれだけ売上を生んだか」を示す数字です。ROASが高いチャネルは、一見すると投資効率が良く、予算を増やすべき対象に見えます。
ただし、ROASは「そのチャネルにあとどれだけ投資余地があるか」までは教えてくれません。市場規模が小さいチャネルでは、ROASが良くても、投資できる金額そのものに上限があります。予算を増やしても、獲得できる顧客がいなければCPAが急激に悪化し、ROASはすぐに崩れます。
POINT
ROASが高いチャネル=予算を増やすべきチャネル、ではありません。
市場規模が小さければ、そもそも投資できる金額に上限があります。逆に、市場規模が大きく、CPAが許容範囲に収まっているのであれば、「今のROASが多少下がっても投資を増やす」という判断が成立することがあります。予算配分は、ROASという一つの数字だけで止めるべき判断ではなく、市場規模とCPAを合わせて見て初めて成立する判断です。
チャネル間の予算配分は「市場規模 × CPA」で考える
Amazon・楽天市場・Yahoo!ショッピングなど、複数チャネルを運用していると、同じ商品でもチャネルによって売れ方がまったく違うという場面によく出会います。Amazonでは主力になっている商品が、楽天やYahoo!ではほとんど動かない、ということは珍しくありません。これは商品力の差ではなく、チャネルごとにユーザーの検索行動や購買行動、市場規模そのものが異なるために起こります。
加えて、SEO順位や、そのチャネル内での指名検索・カテゴリ検索のボリュームによっても、チャネル別の売れ方は変わります。検索需要が大きいチャネルでは、広告に頼らなくても一定の売上が積み上がりますが、検索需要が小さいチャネルでは、広告費をかけてもそもそも母数が少なく、CPAが高止まりしやすくなります。各チャネルの特徴の違いについては、以下で詳しく整理しています。
▶ Amazon・楽天・Yahoo!・Qoo10の違いを比較|EC担当者が知るべきモールの特徴
チャネル間で予算を配分するときは、ROASだけでなく、次の2つを合わせて確認する必要があります。
| 市場規模 | CPAの状態 | 予算配分の考え方 |
|---|---|---|
| 大きい | 許容範囲内 | ROASが多少下がっても投資を増やす余地がある |
| 大きい | 悪化している | 投資を増やす前に、CPA悪化の要因(競合・入札単価・商品ページ)を確認する |
| 小さい | 許容範囲内 | ROASが良くても、投資できる金額自体に上限がある |
| 小さい | 悪化している | これ以上の投資は非効率。他チャネルへの再配分を検討する |
この表が示しているのは、「ROASが良いから増やす」「ROASが悪いから減らす」という単純な二択ではなく、市場規模というもう一つの軸を重ねて初めて、投資を増やすべきか・止めるべきかが判断できるということです。
月次・年間予算は「売上目標 × トレンド × ROAS」で考える
チャネル間の配分とは別に、月次・年間の予算計画という場面もあります。こちらは「どのチャネルに配分するか」ではなく、「全体としてどれだけの広告費を投下するか」を決める判断です。ここでは、売上目標・季節トレンド・ROASの3つを組み合わせて考えます。
売上目標が高い月やセール時期は、多少ROASが下がっても投資を積み増す判断がありえます。逆に、閑散期や在庫に余裕がない時期は、ROASが良くても投資を絞る判断が必要になることがあります。売上そのものの構造や、KPIとしてのROAS・CPAの位置づけについては、以下の記事もあわせて参考にしてください。
▶ ECの売上の仕組みとは?アクセス×CVR×客単価だけで終わらせない考え方
▶ ECのKPIとは?売上のどこに問題があるかを分解するための数字
チャネルごとの市場規模を把握する
検索ボリューム・カテゴリ規模・競合の出稿状況などから、そのチャネルにどれだけの需要があるかを確認します。
CPAが許容範囲かを確認する
粗利や顧客単価から逆算した許容CPAと、現状のCPAを比較します。
現在のROASを分解する
ROASの数字だけでなく、新規とリピートの内訳、指名検索経由かどうかまで分解して見ます。
売上目標とトレンドを重ねる
月次・年間の売上目標、セールや繁閑期のトレンドを踏まえて、投資を増やす時期・絞る時期を判断します。
上司・経営への説明を整理する
ここまでの判断根拠を、相手に応じた順番で説明できる形に整理します。
上司・経営への説明の仕方
予算配分の判断は、自分の中で整理できていても、周囲に説明できなければ意思決定にはつながりません。説明する相手によって、整理の仕方を変える必要があります。
上司への説明
直属の上司には、施策単位の詳細まで含めて説明することが多くなります。このとき整理しておきたいのは、メリット・デメリット、目的、施策の優先順位、そして担当者としての意見です。「なぜこの配分にするのか」だけでなく、「他の選択肢と比べてどうか」「自分はどう考えているか」まで示すと、判断の材料として受け取ってもらいやすくなります。
経営層への説明
経営層に対しては、施策の詳細よりも、現状の課題→やるべきこと→施策、という順番で説明するほうが伝わりやすくなります。「今、何が課題なのか」を先に示し、そのうえで「だから何をやるべきか」、最後に「具体的な施策」という順に説明することで、細かい数字の話に入る前に、経営判断として妥当かどうかを判断してもらいやすくなります。全体の戦略設計の考え方は、以下でも整理しています。
▶ EC戦略とは?メーカーECの戦略設計を市場・商品・チャネル・KPIから解説
よくある失敗・注意点
- ROASの数字だけを見て、市場規模の違いを考慮せずに予算を動かしてしまう
- 一つのチャネルで売れている商品を、そのまま他チャネルにも同じ予算配分で展開してしまう
- 閑散期・繁忙期のトレンドを考慮せず、月ごとに同じ配分ロジックを機械的に当てはめてしまう
- 経営層への説明で、現状の課題を飛ばして施策の詳細から話し始めてしまう
まとめ|予算配分はROAS単体ではなく判断軸で決める
この記事のまとめ
- ROASが高いチャネル=予算を増やすべきチャネル、とは限らない
- チャネル間の配分は「市場規模×CPA」で考える
- 月次・年間予算は「売上目標×トレンド×ROAS」で考える
- 上司には施策の詳細と意見を、経営層には課題起点の説明を
予算配分は、一つの数字だけで判断できるものではありません。市場規模・CPA・ROAS・売上目標・トレンドという複数の軸を組み合わせて、自分なりの判断軸を持てるかどうかが、EC担当者からEC責任者へ近づく分かれ目になります。
この記事は「EC担当者コース LEVEL5|設計・説明する」の教材の一つです。LEVEL5の他の教材は現在整備を進めており、順次公開していく予定です。コース全体の構成は、以下から確認できます。
自分の市場価値を整理したい方へ
予算配分のような判断軸は、キャリアの市場価値にもつながります。今の自分の強み・課題を客観的に把握したい方は、市場価値ライト診断もご活用ください。所要時間は約3分です。
一人で判断しきれないと感じたら
予算配分のような判断は、社内で相談できる相手が少ないテーマです。転職を前提としない相談も可能ですので、考え方を一度整理したい方はご利用ください。

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