EC戦略とは?メーカーECの戦略設計を市場・商品・チャネル・KPIから解説

EC戦略とは?メーカーECの戦略設計を解説するアイキャッチ画像

EC担当者コース LEVEL4|施策を比較して判断できる

「EC戦略」「ECサイト戦略」「EC事業戦略」と検索すると、フレームワークや成功事例の一覧が出てくることが多いと思います。ですが、実務でEC戦略を考えるときにやっていることは、もっとシンプルです。

課題を見つけて、対策する。この繰り返しです。

私が考えるEC戦略とは、単に広告やセールなどの施策を決めることではありません。市場規模を把握し、自社のポジションと競合を分析したうえで、どこでシェアを取りにいくのかを決める。そのうえで施策を実行し、事前に決めたKPIで検証しながら改善を繰り返す。これがEC戦略の実務上の流れです。

ここで注意したいのは、「広告やセールは施策であって戦略ではない」という単純な二項対立で捉えないことです。広告、セール、SNS運用、モール展開といった打ち手は、捉え方次第で戦略にも施策にもなり得ます。重要なのは呼び方の違いではなく、市場・競合・ポジショニングとのつながりを持ったうえでその打ち手を選べているかどうかです。

私はAmazon・楽天市場・Yahoo!ショッピング・Qoo10、そして自社ECの運用・支援を経験してきました。この記事では、その実務経験をもとに、EC戦略をどう考え、何から手をつけるべきかを整理します。

目次

EC戦略とは何か

EC戦略とは、以下のサイクルを回し続けることだと考えています。

市場を見る → 現状を見る → 課題を特定する → 打ち手を決める → 実行する → 数字を見る → 次の課題を特定する

このサイクルのどこか一箇所だけを切り取って「戦略」と呼ぶことはできません。市場を見ずに施策だけを実行しても、数字を見ずに次の打ち手を決めても、どこかで歪みが生まれます。

EC戦略という言葉を難しく捉えすぎず、「今、何が課題で、何を対策すべきか」を繰り返し問い続けることだと考えると、実務での動き方が明確になります。

戦略と施策の違い

広告、セール、SNS運用。こうした施策自体が悪いわけではありません。実務でも、これらは日常的に使っています。

重要なのは、「なぜその施策をやるのか」という戦略があるかどうかです。

戦略を持ったうえで実行する施策は、課題に対する打ち手として機能します。一方で、戦略がないまま実行される広告やセールは、単発の施策で終わってしまいます。売上が落ちたから広告を増やす、他社がセールをやっているから自社もやる。こうした判断を繰り返していると、なぜ成果が出ているのか、出ていないのかが見えなくなります。

「売上を伸ばすための具体的な打ち手」については、メーカーECの売上は「施策の数」では決まらないで詳しく解説しています。この記事では、その前提となる「戦略とは何か」を扱います。

3C・SWOT・4Pといったフレームワークを使って状況を整理すること自体は有効だと思っています。ただしECの実務は、最初から完璧な戦略を組み立てるより、トライアンドエラーを重ねる世界です。仮説を立てて施策を実行し、数字を見ながらPDCAを回すことの方が、フレームワークを精緻に埋めることよりも重要だというのが実務上の実感です。

最初に見るべきは市場規模

EC戦略を考えるとき、私が最初に見るのは市場規模です。

実務上、市場・商品・チャネル・KPIという4つの軸の中で、もっとも見落とされやすいのが市場です。「どう売るか」という施策の話から入ってしまう組織を数多く見てきましたが、その前に「どの市場で、誰と競争し、どこからシェアを取るのか」を見なければ、打ち手の的が定まりません。

細かい施策から考え始めるのではなく、「そもそも自社の商品ジャンルには、どれくらいの市場が存在するのか」という全体像を見るところから始めます。

市場規模を見ずに施策を積み上げても、そもそもの天井が低ければ、成果には限界があります。

どのチャネル(モール・自社EC)にどれだけの市場規模があるかは、Amazon・楽天・Yahoo!・Qoo10の違いを比較で詳しく解説しています。

商品に問題があるケースを見分ける

市場規模を確認したうえで、次に見るべきは商品です。

実務上、商品力がないことは致命的になり得ます。売れない商品に固執し、広告費や販促コストをかけ続けて何とか売ろうとしているケースを、これまで何度も見てきました。しかし、商品そのものに問題がある場合、集客をどれだけ強化しても解決しません。

商品戦略が弱い状態のサイン

商品戦略が弱い状態には、次のようなサインがあります。

  • 商品特徴が弱い
  • 市場性がない
  • 価格パフォーマンスが弱い
  • セールを打てる価格設計になっていない
  • LTVにつながらない

こうしたサインが見られる場合、必要なのは広告の強化ではなく、商品そのものを見直す判断です。売れないのであれば、次の商品を作る・投入するなど、商品自体を変えられる体制を持っておくことも、EC戦略の一部だと考えています。

逆に、商品力が十分にある場合は、その後の戦略的なマーケティングが重要になります。ブランドと売上のバランスについては、ECとブランドの関係とは?で扱っています。

チャネルの優先順位はCPAとLTVで考える

商品に問題がないことを確認できたら、次はチャネルの優先順位です。

Amazon、楽天、Yahoo!ショッピング、自社ECなど、どこに投資を厚くするか。ここで見るべきは市場規模だけではなく、CPA(顧客獲得単価)とLTV(顧客生涯価値)です。

実務上の考え方としては、CPAの低いチャネルから投資を厚くしていくのは合理的な判断です。ただし、単純にCPAだけで決めるべきではありません。LTVやチャネルごとの特性も合わせて見る必要があります。CPAが多少高くても、LTVが高いチャネルであれば、長期的には投資対効果が見合うこともあります。

またメーカーの立場では、転売ストアを取り締まりやすいか、ブランドや流通を管理しやすいかというプラットフォーム特性を優先する判断もあり得ます。これは単純な収益性だけでは測れない、メーカーEC特有の判断軸です。

自社ECとECモールに同じ戦略を当てはめない

経営層とEC現場との間でよく起こるズレの一つに、「自社ECの戦略をそのままECモールにも当てはめようとする」ことがあります。

自社ECとAmazon・楽天市場などのモールでは、ユーザーの購買理由、競争環境、有効な販促手段がそれぞれ異なります。自社ECではブランドの世界観や独自コンテンツが購買の決め手になりやすい一方、モールでは検索順位やレビュー、価格競争力が大きく影響します。

同じ「売上を伸ばす」という目的でも、チャネルが変われば有効な打ち手も変わります。自社ECで効果のあった施策を、そのままモールに横展開しても機能しないことは珍しくありません。チャネルごとに戦略を立て直す視点が必要です。

この違いは、LTVの捉え方、UI/UXの自由度、取得できる顧客データ、顧客分析の深度にも表れます。自社ECでは購入者のデータを蓄積し、行動を継続的に分析できますが、モールではプラットフォーム側の制約により、自社ECと同じ深度で顧客行動を把握できないケースがあります。例えばAmazonでは、SNS経由の流入が売上にどう寄与したかを、施策や計測環境によっては直接把握しづらいケースがあり、実務上は推測を交えて判断せざるを得ない場面もあります。

KPIは「今の課題を判断するための数字」で選ぶ

EC戦略において、売上だけで良し悪しを判断するのは危険です。

実務で見ている主な指標には、CPA、LTV、CVR、ROAS、粗利、客単価、リピート率などがあります。ただし、これらの指標を並べて眺めるだけでは意味がありません。大切なのは、「今、何が課題なのかを判断するために、どの数字を見るか」という考え方です。

例えば、売上は落ちていないのに利益が減っているのであれば、粗利や広告費の使い方に課題がある可能性があります。新規は取れているのにLTVが伸びないのであれば、CRMやリピート施策に課題がある可能性があります。数字を分解せずに「売上が落ちた、広告を増やそう」という短絡的な判断をしてしまう組織は、メーカーECの売上が上がらない本当の理由でも触れている典型的な失敗パターンです。

重要なのは、施策を実行してから「効果があったかどうか」を後から考えるのではなく、実行する前に「何をKPIとして成功・失敗を判断するのか」を決めておくことです。仮説を立て、KPIを設定し、実行し、検証し、改善する。このサイクルを基本として回すことが、EC戦略における数字の使い方だと考えています。なお、計測が難しい施策について「数字が取れない=効果がある」と考えるのは早計です。実施はしたものの、後から検証すると期待した効果が見えなかった、というケースも実務では珍しくありません。

広告は「否定」ではなく「戦略的に使う」もの

「広告を増やしてもECは伸びない」という主張を、単純に受け入れるべきではないと考えています。

実務経験としては、広告投下によって売上が伸びることは実際にあります。価格調整によって売上が伸びることもあります。広告や価格施策そのものを否定するのは、実態に合っていません。

POINT

判断の軸になるのは、以下の点です。

  • 商品に市場性があるか
  • CPAが成立するか
  • 投資した上で粗利が残るか
  • LTVにつながる設計になっているか
  • どこまで広告投資を増やせる余地があるか

これらを見ずに広告費を増やすことは「施策をやること」でしかありません。これらを見ながら投資判断をすることが、「施策を戦略的に使うこと」です。同じ広告運用という行為でも、この違いによって成果は大きく変わります。

実務では、市場規模や自社のポジショニングを十分に確認しないまま、広告出稿量だけを増やしてしまうケースを見かけることがあります。市場でのポジションが弱いまま流入だけを増やしても、売上にはつながりにくいというのが実務上の実感です。

広告・集客の実務については、ECマーケティングとは?で詳しく解説しています。

EC戦略の立て方|実務で考える8ステップ

ここまでの内容を、実務上の判断の流れとして整理すると、次のようになります。

1

市場規模を見る

2

自社のポジションと競合を見る

3

どこでシェアを取るかを決める

4

施策とKPIを決めて実行する

5

決めたKPIで検証する

6

課題を特定する

7

対策する

8

再び数字を見て改善する

これは絶対的な正解の順番ではなく、実務上の基本的な考え方として捉えてください。事業のフェーズによっては、商品の見直しが先に必要な場合もあれば、チャネルの入れ替えを先に判断すべき場合もあります。ただし、市場と数字を見ずに施策から入ってしまうと、この記事の冒頭で触れた「戦略のない施策」に陥りやすくなります。

EC戦略を実行する組織・体制

ここまでは、何を判断すべきかという話をしてきました。ですが、判断できることと、それを実行できることは別の問題です。

EC担当者だけでは変えられないものがある

EC戦略を考えるうえで見落とされがちなのが、EC担当者一人の判断だけでは実行できない領域があるという点です。

価格を調整したい、広告投資を増やしたい、新商品を投入したい。EC担当者としてこう考えても、メーカーではEC部門だけで決められないことが少なくありません。

特に価格については、自社ECや他の販売チャネルとの兼ね合いがあるため、ECモールだけを見て自由に変更できるとは限りません。新商品についても、「モールで売れそうだから作る」という判断だけでは不十分で、会社全体の商品戦略との整合性が必要になります。あるモール専売の商品を企画する場合も、そのモールに十分な市場性があるか、開発・販売コストを含めて利益を確保できるかという判断が欠かせません。

EC戦略は、EC担当者だけで完結するものではありません。

メーカーと代理店の役割分担

「メーカーECは内製すべきか、代理店に任せるべきか」という問いを、二択で考えるべきではないと考えています。最適な体制は、事業のフェーズとメーカー側のリソースによって変わります。

私の考えでは、EC事業全体の戦略、どこへ投資するか、どのチャネルを優先するか、最終的な意思決定は、メーカー側が持つべきものです。一方で、競合情報、広告運用、モール内の最新施策といった施策レベルの知見については、複数企業・複数アカウントを扱っているからこそ代理店が持っている情報もあります。

つまり問うべきは「メーカーか代理店か」ではなく、「メーカーが何を判断し、何を外部の専門家に任せるか」という役割分担です。内製化・代理店活用の詳細は、EC内製化が失敗する企業の共通点メーカーECが代理店依存になる本当の理由で扱っています。

EC担当者を「作業者」にしない

売上が伸びない原因を、EC担当者個人の能力だけに求めるべきではありません。メーカーでは、商品力が弱い、新商品の開発スピードが遅い、EC担当者に意思決定権がない、トップダウンで指示された施策を実行するだけになっている、といった会社側の構造がボトルネックになっているケースがあります。

市場や数字を最も見ているのはEC担当者であることが多いにもかかわらず、商品・価格・広告投資などを変える権限がなければ、課題を見つけても対策にはつながりません。EC担当者が「作業者」の立場に置かれている組織では、どれだけ優秀な担当者がいても改善サイクルは回りません。

課題発見→意思決定→実行が回る体制が必要

この記事の冒頭で述べたように、EC戦略とは「課題を見つけて、対策する」の繰り返しです。しかし、課題を発見できても、意思決定と実行がそこに続かなければ、このサイクルは止まってしまいます。

だからこそEC戦略は、個人の頭の中だけで完結させるものではなく、課題発見から意思決定、実行までが組織として回り続ける体制があってはじめて機能します。この構造の問題を掘り下げた記事として、メーカーECの売上が伸びない原因を診断するもあわせてご覧ください。

まとめ|EC戦略とは、課題を見つけて対策する繰り返し

EC戦略と聞くと、複雑なフレームワークや成功事例を思い浮かべるかもしれません。しかし実務で行っていることは、突き詰めればシンプルです。

課題を見つけて、対策する。この繰り返しです。

そのためには、市場・商品・チャネル・数字を見る判断力と、見つけた課題を実行に移せる組織の両方が必要です。どちらか一方だけでは、EC戦略は機能しません。

よくある質問

Q. EC戦略とは何ですか?

A. 市場を把握し、自社のポジションと競合を分析したうえで、どこでシェアを取りにいくかを決め、施策を実行し、KPIで検証しながら改善を繰り返す一連の流れです。

Q. EC戦略はどうやって立てればいいですか?

A. 市場規模の把握→自社ポジション・競合の把握→シェアを取る場所の決定→施策とKPIの決定→実行・検証→改善、という順番で考えることを本記事では推奨しています。

Q. EC戦略とECマーケティング戦略の違いは?

A. EC戦略は市場・商品・チャネル・KPIを含む事業全体の意思決定、ECマーケティング戦略はその中の集客・販促に関する施策部分を指すことが多いです。

Q. EC戦略を考えるときに最初に見るべきものは?

A. 施策ではなく市場規模です。市場が小さければ、どれだけ施策を工夫しても成果には限界があります。

Q. 3CやSWOTはEC戦略でも必要ですか?

A. 整理のツールとしては有効ですが、完璧な戦略を作ることより、仮説を立てて実行し、数字を見ながら改善するほうが重要です。

まずは市場価値を知りたい方へ

EC Career Labでは、無料で受けられる「EC市場価値診断」を提供しています。

キャリアの方向性に迷っている方や、自分の現在地を客観的に把握したい方は、ぜひご利用ください。


はじめてのメーカーEC講座|STEP 3
この記事は「ECで売上が生まれる仕組みを学ぶ」STEPの一部です。
▶ 講座の全体を見る

次に読む:
ECマーケティングとは?施策ではなく「構造」で考える売上改善の考え方

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

EC Career Lab運営者

メーカーECを中心に10年の実務経験。ECモール企業で100社以上のメーカー支援に携わり、メーカー側では月商3億円規模のECアカウント運営、月商1〜2億円規模のEC事業運用を経験。

EC担当者の仕事・市場価値・キャリア・組織構造を、実務経験をもとに整理して発信しています。

コメント

コメントする

目次