この記事でわかること
- 2026年9月時点で公開されていたEC責任者求人の年収レンジと、その仕事内容
- EC担当者とEC責任者の違いを「施策・運営」と「全体管理」で捉える考え方
- 「数値をもとに実施判断する」とは具体的にどういうことか
- EC責任者の年収が何に対して払われているのか
- 社内昇進と転職で、年収の決まり方がどう違うか
EC担当として経験を積んでいくと、「EC責任者になると年収はどのくらい変わるのか」が気になってくると思います。
先にお伝えすると、「EC責任者なら年収○万円」とは言えません。同じ「EC責任者」という名前の求人でも、年収レンジは400万円台から1,000万円超まで開きがありますし、任されている仕事の中身もかなり違います。
この記事では、EC担当者全体の年収相場ではなく、担当者から責任者へ進んだときに、何が変わるから年収レンジが変わるのかを整理します。EC担当者全体の年収の目安はメーカーEC担当者の年収相場でまとめているので、そちらとあわせて読んでみてください。
EC責任者の年収はどのくらいか
2026年の求人例から見る年収レンジ
2026年9月21日時点で、転職サイトに公開されていた「EC責任者」「EC運営責任者」「ECモール統括」などの求人から、いくつか例を挙げます。年収だけでなく、求人票に書かれている仕事内容も並べています。
| 求人(企業・職種) | 提示年収 | 求人票に書かれている主な仕事 |
|---|---|---|
| ファナティクス・ジャパン/ECサイト責任者(doda) | 450万〜550万円 | 担当チームのオンラインストアの責任者として、ECビジネスの成長をリードする |
| ハイガー/EC運営責任者候補(doda) | 450万〜650万円 | P/Lを見て販促・在庫・広告投資を判断する、部内のマネジメント |
| ドウシシャ/EC運営責任者(リビング関連商材)(doda) | 600万〜800万円 | EC店舗の売上・利益分析と課題抽出、中長期の戦略立案、関係部門との調整 |
| SOLIA/ECモール統括(マイナビ転職) | 700万〜1,200万円 | ECモールの売場全体の戦略立案、売上・利益の管理とPL責任、他部門と連携した価格・在庫戦略 |
| ヤマシタ/EC運営責任者(doda) | 800万〜1,000万円 | 売上・アクセス分析とPDCA、広告・CRM施策、商品登録や在庫・価格管理を含むサイト運営 |
| はるやま商事/EC事業の責任者(doda) | 800万〜1,200万円 | EC事業の中長期戦略と事業計画、売上・利益最大化に向けたKPI設計、約20名の組織マネジメント |
この表の見方
ここに挙げたのは、2026年9月時点で公開されていた求人の一例です。平均年収や相場を示すものではありません。求人は掲載終了や内容変更になることがあるため、最新の情報は各求人ページで確認してください。仕事内容は求人票の記載から要約しています。
これだけを見ても、「EC責任者=年収800万円以上」とは言えないことが分かります。450万円前後から始まる求人もあれば、上限が1,000万円を超える求人もあります。
「EC責任者」という肩書きだけでは年収は決まらない
表をもう少し細かく見ると、年収と仕事内容が単純には対応していないことに気づきます。
450万〜650万円の求人でも「P/Lを見て販促や在庫、広告投資を決める」「部内のマネジメント」と書かれているものがあります。一方で、800万〜1,000万円の求人でも、商品登録や在庫・価格管理といった運営実務が仕事内容に含まれているものがあります。
つまり、「この業務が書いてあれば○万円」という対応関係はありません。年収レンジには、会社の規模や業界、EC事業の大きさ、組織の人数なども影響します。会社によって年収が変わる理由はEC担当の年収は会社選びで決まるのかで整理しています。
そのうえで、今回見た求人の中では、上限が高いものほど「売上・利益の責任」「事業計画」「組織マネジメント」がはっきり書かれていました。年収を見るときは、その年収で何に責任を持つのかを一緒に見る必要があります。
EC担当者とEC責任者は何が違うのか
担当者は施策・運営、責任者は全体管理
会社によって違うという前提のうえで、私はこう整理しています。
担当者と責任者の違い
EC担当者は、施策や運営に責任を持つ。
EC責任者は、全体管理に責任を持つ。
全体管理とは、数値をもとに実施を判断し、管理することです。
これは「担当者は作業をする人」という意味ではありません。担当者でも施策を設計し、数値を分析し、代理店を管理している人はたくさんいます。違いは能力の上下ではなく、責任範囲がどこまで広がっているかです。
「数値を見て実施判断する」仕事へ変わる
たとえば担当者が、広告施策やモールのキャンペーン、商品ページの改善を実行する立場だとします。このとき責任者が判断しているのは、その手前にある次のようなことです。
| 担当者の仕事 | 責任者が判断すること |
|---|---|
| 広告施策を実行する | その施策に予算を使うのか、他の施策より優先するのか |
| モールのセールに参加する | 値引きしても利益が残るのか、在庫は足りるのか |
| 担当モールの売上を伸ばす | どのモールに投資し、どこを縮小するのか |
| 商品ページを改善する | いまリソースを割くべきはページなのか、集客なのか |
| 施策の結果を報告する | 続けるのか、いつ撤退するのか |
「施策を実行できる」から、「数字を見て、何を実行するかを決める」へ。これが担当者から責任者への変化の中心です。何をやり、何をやらないかを決める判断の考え方は、EC責任者とEC担当者の違いで詳しく扱っています。
EC責任者はどこまで見られる必要があるのか
売上・利益・予算・在庫・モール・代理店
私の感覚では、メーカーECの責任者になるなら、次のような範囲を漏れなく見られる必要があります。
売上。
利益。
広告予算。
在庫。
モールや自社ECなどのチャネル。
代理店。
メンバー。
事業計画。
どれかひとつが抜けると、判断を誤りやすくなります。売上だけを見て広告を増やせば利益が残らないことがありますし、在庫を見ずにセールを仕掛ければ欠品を招きます。すべての会社で責任者がこの範囲を持つわけではありませんが、メーカーECの責任者像のひとつとして、これくらいの範囲を想定しておくと実態に近いと思います。
全部を自分で作業するという意味ではない
ここは誤解しやすいところです。「全部見られる」は、「全部自分で作業する」という意味ではありません。
広告の運用は代理店に任せ、モールの日々の運営はメンバーに任せる。責任者がやるのは、誰がやるかを決め、数字を見て判断し、全体として成果が出る状態を作ることです。むしろ責任者が作業を抱え込むと、判断に使う時間がなくなっていきます。
メーカーECでは「担当者が実質全部管理している」こともある
ここまで担当者と責任者を分けて書いてきましたが、実際のメーカーECでは、この線引きがきれいに分かれていないことがよくあります。
肩書きの上ではEC責任者がいるけれど、実際には担当者が売上を見て、広告予算を見て、モールを管理して、代理店とやり取りして、在庫を調整して、施策も考えている。その上に形式上の責任者がいる。私の実感では、これはメーカーECのあるあるです。
ただ、だからといって責任者が何もしていないとは限りません。人のマネジメントや評価、経営層への説明、他部署との調整、最終的な意思決定など、担当者の席からは見えにくい仕事を持っている可能性があります。
この状態にいる担当者にとって大事なのは、自分が実質的にどこまで判断しているのかを把握しておくことです。肩書きは担当者でも、数値を見て実施判断をしている経験があるなら、それは責任者に近い経験です。転職の場面では、その中身を言葉にできるかどうかで評価が変わります。書き方は職務経歴書で担当範囲と裁量をどう書くかで扱っています。
責任者になると「人のマネジメント」が加わる
担当者と責任者の違いとして、私がもうひとつ大きいと考えているのが人のマネジメントです。
担当者は、自分が成果を出せば評価されます。責任者になると、自分の成果だけでなく、チームとして成果を出すことが求められるケースが増えます。
マネジメントに含まれる仕事の例
- メンバーへの業務配分
- 目標設定と進捗管理
- 育成と評価
- 採用
- 代理店を含めた役割分担
ECのスキルが高くても、人に任せて成果を出すことは別の力です。求人例でも、上限の高い求人に「約20名の組織マネジメント」と明記されているものがありました。組織を動かす責任は、年収レンジを分ける要素のひとつになっていると考えられます。
EC責任者の年収が高くなる理由
では、責任者の年収は何に対して払われているのでしょうか。私は、売上・利益への責任と、人のマネジメントに対してだと考えています。肩書きに対してではありません。
| 観点 | 担当者が持つことが多い責任 | 責任者が持つことが多い責任 |
|---|---|---|
| 数字 | 担当施策・担当チャネルの成果 | EC全体の売上と利益 |
| お金 | 与えられた予算の執行 | 予算の配分と投資判断 |
| 判断 | 施策の提案と実行 | 何を実施し、何をやめるかの決定 |
| 人 | 自分の業務 | メンバー・代理店を含めたチーム |
もちろん会社によって役割は大きく違います。担当者が予算配分まで持つ会社もあれば、責任者でも利益までは見ない会社もあります。あくまで傾向として見てください。
売上・利益責任
担当チャネルの売上を伸ばすことと、EC全体の売上と利益に責任を持つことは、重さが違います。広告費やモール手数料、物流費を差し引いたうえで利益が残っているかまで問われると、施策ひとつの良し悪しではなく、事業としての成績を背負うことになります。
意思決定
予算をどこに使い、どの施策を優先し、どのチャネルに投資するのか。判断を誤れば、その影響は事業全体に及びます。判断の結果に責任を持つことも、年収に含まれている部分だと思います。
人・組織の責任
メンバーの成果、育成、評価。自分以外の人が動いて成果が出る状態を作る責任です。会社によっては、ここが管理職の等級と結びついていて、年収レンジを大きく分けることがあります。
社内昇進と転職では年収の上がり方が違う
責任者クラスへの年収の上がり方は、社内で上がる場合と転職で上がる場合で、仕組みが違うと私は考えています。
社内では会社の基準に乗る必要がある
社内で次の年収に進むには、その会社の基準に乗る必要があります。等級、評価制度、昇格条件、空いているポスト、管理職の要件。どれも会社ごとに決まっています。
そのため、担当者のまま実質的に責任者の仕事をしていても、制度上の等級が変わらなければ年収は大きく変わらない、ということが起こります。能力が上がったからすぐに年収が上がるとは限りません。
転職では市場からの評価になる
転職になると、評価の基準が会社の制度から市場に移ります。担当範囲、実績、責任範囲、再現性、マネジメント経験といった観点で見られるため、スキルと実績によっては、社内での昇給よりも大きくレンジが変わる可能性があります。
私は、実績に加えて、担当者として応募するのか責任者として応募するのかで、提示されるレンジそのものが変わると考えています。担当者から責任者への違いは、それだけ市場での見られ方を変える要素だということです。
ただし、転職すれば年収が上がるわけではありません。責任者クラスの求人に応募するなら、責任者に近い経験をしてきたことを説明できる必要がありますし、年収以外の条件とのバランスもあります。
EC責任者を目指すなら経験したい3つ
では、担当者のうちに何を経験しておくと、責任者に近づけるのか。私は次の3つだと考えています。
数値責任を持つ
レポートを見て報告するだけでなく、売上・利益・予算について「なぜこの数字になったのか」「次にどこへ投資するのか」まで考える経験です。目標を与えられて追いかけるのではなく、数字の結果を自分の判断の結果として説明する立場に立つと、見える景色が変わります。
複数モールを横断して見る
Amazonだけ、楽天市場だけという担当から、Amazon・楽天市場・Yahoo!ショッピング・自社ECなど、複数のチャネルを横断して見る経験です。
全モールを経験していないと責任者になれない、ということではありません。大事なのは、チャネル単体の最適から、EC全体の最適へ視点を広げることです。ひとつのモールで伸ばした施策が、別のチャネルの売上を食っていないか。予算をどのチャネルに寄せると全体が伸びるか。こうした判断は、横断して見る立場でないと身につきにくいものです。
実績を作る
責任範囲が広いだけでは足りません。その環境で何を考え、何を変え、どんな結果につながったのかを説明できることが必要です。
このとき、売上の前年比だけを実績として出すのは危うさがあります。市場の伸びやセール時期、新商品の発売など、自分の判断以外の要因が混ざっているからです。どこまでが自分の判断による変化なのかを切り分けて説明できると、実績の説得力が変わります。実績をどう積み上げて評価につなげるかは、EC担当の市場価値を高める5つの行動でも整理しています。
この3つのうち、どこまでをすでに経験していて、どこが足りないのかは人によって違います。責任者を目指すかどうかを決める前に、まずは今の担当範囲を整理してみると、次に何を経験すべきかが見えやすくなります。
自分の現在地を整理したい方へ
責任者を目指すべきかどうかより先に、いまの自分がどこまで担当できていて、次に何を経験すべきか。担当範囲と役割から現在地を整理したい方は、EC担当のキャリア現在地診断もご活用ください。所要時間は約3分です。
年収だけでEC責任者を目指す必要はない
EC責任者になると、年収が上がる可能性はあります。一方で、数字の責任、人の責任、経営への説明、意思決定、部署間の調整も増えます。責任者は担当者の上位互換ではなく、別の種類の仕事です。
手を動かすEC運用を深く極めたい人もいますし、広告や分析などの専門性で市場価値を高める道もあります。どちらが正しいということはありません。管理職に進むかどうかの考え方は、EC担当のキャリアパスとマネージャーになるべきかで扱っています。
年収を比べるときに見てほしいのは、肩書きではなく何に責任を持っているのかです。施策を実行する立場から、EC全体を数字で見て、何を実施するか判断し、売上と利益に責任を持ち、人と組織にも責任を持つ。担当者から責任者へ進むと、変わるのは年収より先に、この責任範囲そのものです。

コメント