この記事でわかること
- メーカーECと支援会社で、身につきやすい経験の傾向の違い
- 支援側は「売る力を深く」、メーカー側は「見る範囲を広く」しやすい理由
- 支援会社からメーカーへ、メーカーから支援側へ移るときに活きること・ズレやすいこと
- 両方を経験することで、EC人材として何が変わるのか
- 次の環境を「何を経験したいか」で選ぶ考え方
EC担当としてキャリアを考えると、「メーカーECに行くか、EC支援会社や代理店に行くか」で迷うことがあります。
この記事は、どちらが上かを決める記事ではありません。扱うのは、メーカー側と支援側で身につきやすい経験がどう違うのか、そしてその経験がその後のECキャリアでどう活きるのか、です。
私はECモール企業、つまりプラットフォーム側で、100社以上のメーカーのEC支援やコンサルティングに携わってきました。メーカー側でのEC実務も経験しています。代理店に勤めていたわけではないので、支援会社全般の話は一般論として、プラットフォーム側での支援経験は私自身の実感として、分けて書いていきます。
メーカーECと支援会社では「身につきやすい経験」が違う
先に全体像を示すと、私は両者の違いをこう捉えています。
身につきやすい経験の傾向
支援側:ECで売るための施策を深くする
メーカー側:ECをブランド・商品・事業まで広げて考える
もちろん、これは絶対的な分類ではありません。支援会社でも事業全体まで踏み込む人はいますし、メーカーでもひとつの領域を深く担当する人はいます。会社や職種、担当領域によって大きく変わるので、あくまで「傾向」として見てください。
| 観点 | メーカーEC(傾向) | 支援会社・代理店(傾向) |
|---|---|---|
| 見る範囲 | 事業・商品・ブランドまで広がりやすい | 特定のEC領域を深く見やすい |
| 売上改善 | 自社事業の中で、制約も含めて考える | 多くの施策・ケースを経験しやすい |
| 商品 | 深く関わりやすい | クライアントや担当範囲による |
| ブランド | 関わりやすい | 支援範囲による |
| 施策の量 | 会社による | 多く経験できる場合がある |
| 調整の相手 | 社内(営業・商品企画・物流など)が多い | クライアントとの調整が多い |
メーカー・代理店・独立を含めたキャリア全体の比較は、メーカー・代理店・独立の違いで整理しています。この記事では、メーカー側と支援側の2つに絞って、身につく経験とその活かし方を掘り下げます。
支援側では「ECで売る力」を深く学びやすい
支援側にいて強く感じたのは、モール内で売上を上げていくための施策について、深く学べるということです。ECで売上を上げていくためのノウハウは、支援側のほうが圧倒的につくと私は考えています。
モール内の売上改善を深く経験する
支援側の仕事は、クライアントの売上をどう伸ばすかが中心になりやすいものです。広告、商品ページ、キャンペーン、CVR改善、アクセスの改善、データ分析、競合との比較。モールの中でどう売上を作るかを、日々の仕事として考え続けることになります。
ただし、支援会社に入れば必ずこれらを全部経験できるわけではありません。広告運用だけを担当する職種もあれば、ページ制作が中心の職種もあります。どこまで関われるかは会社と職種次第です。
多くの企業・商品の成功と失敗を見る
支援側の大きな特徴は、多くの企業と商品を見られることです。メーカーにいると、基本的には自社の商品しか見られません。支援側では、同じ施策でも伸びる会社と伸びない会社があることを、何度も目の当たりにします。
なぜこの会社は伸びたのか、なぜ同じことをしても結果が違うのか。その比較を繰り返すうちに、施策を単体ではなく、商品や体制との組み合わせで見るようになっていきます。
施策の引き出しが増えやすい
多くのケースを経験できる環境では、施策の引き出しが増えやすくなります。この商品ならこの打ち手、この状況ならこの順番、というパターンが蓄積されていくからです。
とはいえ、「メーカーより支援会社のほうがECスキルが高い」ということではありません。支援側で深くなりやすいのは「モールの中で売る力」であって、ECに必要な力のすべてではない、というのがこの記事の立場です。支援会社の役割や仕事内容そのものは、ECコンサル・EC支援会社の役割で解説しています。
メーカーECでは「ECを見る範囲」が広がりやすい
一方、メーカー側では、モールの中だけでなく、モール外の広告やブランド戦略にも関わることができます。そのぶん、より網羅的に経験を積みやすいと私は感じています。
モールの外まで見る
メーカーのEC担当は、モールの運営に加えて、自社ECやSNS、モール外の広告など、お客様がブランドに出会う場所全体を見ることになりやすいです。モールの中で売る施策は、その一部という位置づけになります。
ブランド・商品・マーケティングまでつながる
メーカーでは、ECの施策が商品やブランドとつながっています。どの商品を主力にするか、どう見せるか、在庫はどれだけ確保できるか、生産は間に合うか、次の商品開発にお客様の声をどう返すか。マーケティングやCRMとの連携も含めて、ECの外側にある判断に触れる機会が増えます。
売上だけでなく事業としてECを見る
売上に加えて、利益や予算、社内調整もメーカー側では避けて通れません。値引きすれば売上は伸びても、利益やブランドにどう影響するか。卸先との関係は大丈夫か。こうした判断を、自社の事業の一部として考えることになります。
ただし、メーカーのEC担当なら全部を担当する、ということではありません。広告運用だけを任されている人もいれば、商品企画には一切関わらない組織もあります。「広がりやすい」は、あくまでその可能性がある環境だ、という意味です。
支援会社からメーカーへ転職しても活躍できるのか
私は、支援会社からメーカーへ移っても活躍できると思っています。支援側で積んだ売る力は、メーカーでもそのまま武器になるからです。
重要なのは会社とのミスマッチ
ただし、「支援会社出身だから活躍できる」わけではありません。大事なのは、会社が求めている役割と、本人の経験・やりたいことにミスマッチがないかです。
広告だけをやりたい人には合わないこともある
たとえば支援側で広告運用やモール改善、分析を深く経験してきた人がメーカーに移ると、商品知識、生産管理、商品開発、マーケティング、ブランド、在庫、社内調整などにも関わる可能性があります。
本人が「広告運用だけを深くやりたい」と考えている場合、メーカーECの仕事の広さが希望と合わないことがあります。これは能力不足ではありません。やりたい仕事と、会社が求めている役割のミスマッチです。
だからこそ、「メーカーEC」という求人名だけで仕事内容を判断しないことが大切です。転職前に確かめておきたいのは、たとえば次のような点です。
求人票・面接で確認したいこと
- 担当するチャネル(モール・自社EC・モール外広告)
- 広告運用を自分で行うのか、代理店に任せているのか
- 商品企画やブランド戦略にどこまで関わるか
- 在庫や生産とどう関係するか
- 売上・利益のどこまで責任を持つか
- 社内調整やマネジメントの比重
求人票からこれらを読み取る方法はEC担当の求人票の読み方で、面接で確かめる方法はEC担当の転職面接で確認したいことで整理しています。
メーカー経験は支援側でも活きる
逆方向、メーカーから支援側へ移る場合にも、メーカーでの経験は活きます。
「メーカーの気持ちが分かる」は支援の強みになる
私は、メーカーの気持ちが分かることは支援側で大きな強みになると考えています。
支援側から見ると「この施策をやれば売上が伸びる」と思える提案でも、メーカーの中では簡単に実行できないことがあります。予算の枠がある。在庫が足りない。上司に説明して承認をもらう必要がある。営業部や卸先との関係がある。ブランドのルールがある。利益が残るかも問われる。
メーカー側を経験していると、こうした社内事情を踏まえて、実行できる形に落とし込んだ提案がしやすくなります。「この施策を上に通すなら、こういう説明材料があると通りやすいですよね」と、メーカー担当者の立場に寄り添えるのは、中を知っている人ならではです。
ただし、メーカー経験があるだけで良い支援担当になれるわけではありません。支援側では、分析、提案、専門知識、施策設計といった別の力も求められます。メーカー経験は、それらの力を活かす土台のひとつ、と考えるのが実態に近いと思います。
両方経験するとEC人材として何が変わるのか
私は、メーカー側と支援側の両方を経験する価値はあると考えています。
売るノウハウとメーカー視点を組み合わせる
支援側で得た「ECで売上を伸ばすノウハウ」と、メーカー側で得た「メーカーの視点・事業の視点」は、組み合わせることで意味が変わります。
広告ができる、モール運営ができる、というだけでなく、なぜその施策をやるのか、メーカー側は何を判断しなければならないのか、その施策が商品やブランド、利益にどう影響するのかまで考えやすくなります。施策を提案する立場と、施策を判断する立場の両方を知っているからです。
ECスペシャリストというキャリア
どちらも経験すると、本当にECのスペシャリストとしての立ち位置ができると私は思っています。売る力と、事業として判断する視点の両方を持った人は、メーカーでも支援側でも頼られやすいからです。
ただし、両方を経験しないとECのスペシャリストになれない、ということではありません。どちらか一方を深く極めるキャリアも十分に成り立ちます。また、両方経験したからといって自動的に市場価値が上がるわけでもありません。評価は、担当範囲や成果、その成果を別の環境でも出せるかどうかによって変わります。市場価値の見られ方は成果・再現性・組織通過力で整理した記事で、高め方はEC担当の市場価値を高める5つの行動で扱っています。
メーカー→支援→メーカーでも、支援→メーカー→支援でもいい
キャリアの順番に、正解はないと考えています。「まず支援会社で3年、その後メーカーへ」のような決まったルートがあるわけではありません。
メーカーで事業の視点を持ってから支援側で売る力を深め、もう一度メーカーに戻る。支援側で売る力を身につけてからメーカーで事業を見て、その経験を持って再び支援側へ行く。どちらも成り立ちます。以前、メーカー・代理店・独立を比べた記事で「私ならこの順番を選ぶ」というルートを書きましたが、それもあくまで一例です。
行ったり来たりするキャリアは、一貫性がないように見えることを心配する人もいると思います。でも、なぜ環境を変え、そこで何を経験し、次に何を身につけようとしているのかを説明できれば、それは経験を設計してきたキャリアとして伝わります。その説明の組み立て方は、EC担当の志望動機の考え方でも扱っています。
次にどちらへ行くかは「何を経験したいか」で考える
ここまでの話を、「次に何を経験したいか」から整理すると、たとえば次のようになります。診断やランキングではなく、選択肢の一例として見てください。
| 次に経験したいこと | 選択肢の一例 |
|---|---|
| モール内の売上改善を深く学びたい | 支援側 |
| 多くの企業や商品を見たい | 支援側 |
| ブランドを育てる仕事がしたい | メーカー側 |
| 商品開発と連携したい | メーカー側 |
| 事業全体としてECを見たい | メーカー側 |
| メーカーの事情を理解したうえで支援したい | メーカーを経験してから支援側 |
| 売る力と事業の視点を両方持ちたい | 両方を経験する |
同じ「支援側」「メーカー側」でも、会社によって経験できることは違います。表の右側は行き先の答えではなく、求人票や面接で「この会社でそれが経験できるか」を確かめるための出発点です。
どちらへ行くかを考える前に、そもそも今の自分が何を経験してきて、次にどんな経験を積みたいのかが整理できていると、選びやすくなります。
自分の現在地を整理したい方へ
メーカーと支援会社のどちらへ進むかを考える前に、これまでどんな経験を積んできて、次に何を経験したいのかを整理しておくと、判断しやすくなります。EC担当のキャリア現在地診断もご活用ください。所要時間は約3分です。
支援側では、ECで売上を作るノウハウを深く学びやすい。メーカー側では、ECから商品・ブランド・事業へと見る範囲を広げやすい。どちらが上ということはありません。大切なのは、「次にどこへ行くべきか」ではなく、「次に何を経験したいのか」からキャリアを考えることです。

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