この記事でわかること
- EC担当の職務経歴書で、経験年数や担当モール名より先に書くべきこと
- 「担当範囲」と「裁量」をどう言語化するか
- 「売上前年比120%」を、外部要因まで含めてどう説明するか
- 成果・再現性・組織通過力という3つの軸での整理の仕方
- 数字を社外に出せない場合の書き方
EC担当として転職活動を始めると、職務経歴書を書く段階で手が止まることがあります。やってきたことはあるのに、それをどう書けば伝わるのかが分からない。書いてみても、どこかありきたりな文章になってしまう。
この記事では、書式やテンプレートの話ではなく、EC経験をどう分解して言語化するかを扱います。EC担当の職務経歴書で伝わるかどうかを分けるのは、レイアウトではなく、経験の切り出し方だからです。
「EC経験3年」では、何ができる人かが伝わらない
職務経歴書でよく見るのが、次のような書き方です。
「楽天市場を3年間担当」
「Amazonの運用を担当」
「EC売上前年比120%を達成」
間違った書き方ではありません。事実として正しい情報です。ただ、これだけでは読む側にとって分かることが少ない、というのが実際のところです。
「楽天を3年間担当しました」と書かれていても、その人が楽天で何をできるのかは、ほとんど判断できません。商品登録と受注対応を3年やっていたのか、広告予算を持って施策を設計していたのか、代理店と方針をすり合わせながら年間計画を回していたのか。同じ「3年間担当」でも中身はまったく違います。
読む側が知りたいのは、何を任され、何を考え、どう変えたのかです。職務経歴書で書くべきなのは、担当していた事実そのものより、その担当範囲の中で自分が何を判断したのかのほうです。
最初に書くべきは「担当範囲」と「裁量」
EC担当の経歴を読むとき、最初に知りたくなるのはこの2つです。
POINT
担当範囲:どこからどこまでを持っていたのか
裁量:そのうち、どこまでを自分で決められたのか
この2つは似ているようで別物です。担当範囲が広くても裁量がないこともあれば、範囲は狭くても任されている領域では自分で判断できることもあります。
自分の担当範囲と裁量を整理できたら、次は応募先で何を任されるのかを読み解く番です。そちらはEC担当の求人票の読み方で扱っています。
書き出すときは、次のような項目で整理すると輪郭が出ます。
| 観点 | 職務経歴書に書ける形 |
|---|---|
| チャネル | どのモール・自社ECを、何店舗分担当していたか |
| 業務範囲 | 商品登録・広告・在庫・CRM・物流連携・社内調整のうちどこまでか |
| 予算 | 広告予算を持っていたか。金額を出せない場合は「予算の配分を自分で決めていた」でも可 |
| 意思決定 | 施策の実行可否を自分で決めていたか、上長承認が必要だったか |
| 体制 | 一人で担当していたか、チームか。代理店を使っていたか |
| 対象 | 何商品・何SKU規模を見ていたか |
ここで注意したいのが、売上規模の扱いです。「月商1億円規模のECを担当」と書けば大きく見えますが、その売上の中で自分が何をしていたかは別の話です。既存の運用を回していた、判断は上長がしていた、施策設計は代理店が担当していた、というケースもあります。
逆に売上規模が小さくても、課題を自分で見つけ、数字を分析し、施策を決め、社内を調整し、実行して振り返るところまで一人で回している人もいます。売上規模を書くのが悪いのではなく、その売上の中で何を任されていたかをセットで書くことが必要だということです。
担当範囲や裁量が会社によってどれだけ変わるかは、EC担当のキャリアマップでも整理しています。
「売上前年比120%」だけでは実力は判断できない
職務経歴書で最も書きやすく、同時に最も誤解されやすいのが成果の数字です。
外部要因を完全に切り離すことはできない
「EC売上を前年比120%にしました」と書かれていたとき、読む側が考えるのは次のようなことです。
市場自体が伸びていたのではないか。
強い新商品が出たのではないか。
広告費が大きく増えたのではないか。
価格改定やモール側の成長が効いたのではないか。
他部署の施策の影響ではないか。
これは相手が疑っているというより、ECの売上がもともと複数の要因で動くからです。正直に言えば、自分自身の成果についても、どこまでが自分の力だったのかを完全に切り分けることはできません。私自身、過去の数字を振り返るときに同じ難しさを感じます。
だから「外部要因を排除して自分の貢献だけを証明する」という考え方は、現実的ではありません。
それでも「自分なりに分解して説明できるか」で差が出る
切り分けきれないこと自体は問題ではありません。問題になるのは、分解を試みた形跡がないことです。
面接で「それは市場成長の要因ではないですか」と聞かれる可能性は十分にあります。そのときに、こう答えられる状態にしておきたい、ということです。
分解して話す形
「この部分は市場やモール側の成長による影響が大きいと考えています」
「この部分は自社の施策の影響があったと見ています」
「そのうち自分が担当したのはここで、こう判断してこう動かしました」
成果を出したことだけでなく、その成果がなぜ出たのかを自分で考えられていることまで含めて見られている、と捉えたほうが実態に近いと思います。売上の数字が控えめでも、この分解ができている人のほうが伝わることは珍しくありません。
EC経験を「成果 × 再現性 × 組織通過力」で整理する
EC Career Labでは、EC担当の市場価値を成果・再現性・組織通過力という3つの要素で整理しています。これはそのまま、職務経歴書に何を書くかの枠組みとして使えます。
成果|何がどう変わったのか
まず、何を変えたのか。数字を出せるなら数字で書きます。ただし前の章のとおり、数字だけを置くのではなく、変化の前後が分かる形にします。
「どういう状態だったものを、どういう状態にしたのか」。この形にすると、売上以外の成果も書けるようになります。レビュー対応の仕組みがなかったものを回るようにした、属人化していた運用を引き継げる形にした、といった変化も立派な成果です。
再現性|別の会社でも同じように考えられるか
採用する側が知りたいのは、過去の結果そのものより、その人が自社に来たときに同じように動けるかです。
そこで効いてくるのが、何を見て、どう課題を捉え、何を判断して、どう施策に変えたのかという思考のプロセスです。商材もモールも予算も変われば、同じ施策は使えません。持ち運べるのは施策そのものではなく、課題の見つけ方のほうです。
この「数字を分解して課題を見つける」という動きが、EC担当のスキルの中でどこに位置するのかは、スキルを3つの層で整理した記事で扱っています。
組織通過力|誰を動かして前に進めたのか
ECは一人で完結する仕事ではありません。施策を動かすには、上長、営業、商品企画、マーケティング、物流、システム、制作、代理店、モール担当者といった相手との調整が入ります。
ここは職務経歴書で最も書き漏らされやすく、そして差がつきやすい部分です。「在庫の確保が間に合わず販促が打てない状態だったので、物流と商品企画に事前の見通しを共有する流れを作った」といった経験は、施策の数を並べるより伝わります。
代理店を使っていた場合は、役割分担も書いておきたいところです。提案をそのまま実行していたのか、提案を評価して優先順位を決めていたのか。この違いは代理店管理がなぜ評価されにくいのかでも触れていますが、職務経歴書でも同じことが言えます。
数字を書けない場合はどうするか
売上、利益、広告費、ROAS、CVR、前年比。こうした数字を社外に出せない会社は珍しくありません。守秘義務がある以上、無理に書くべきではありません。
ただ、数字が書けないことと、経験が伝わらないことはイコールではありません。数字を出せないのであれば、自分で考えて工夫し、PDCAを回した具体例を3つほど用意しておくという方法があります。
| 項目 | 書く内容 |
|---|---|
| 状況 | そのとき何が起きていたか |
| 課題 | 何を問題だと捉えたか |
| 考えたこと | なぜそう判断したか |
| 実行したこと | 具体的に何をしたか |
| 結果・変化 | 数字が出せなければ状態の変化で書く |
| そこから考えたこと | うまくいかなかった点も含めて |
数字がなくても、どう考えて仕事をしていたのかは説明できます。むしろ「売上◯%増」とだけ書いてある職務経歴書より、この形のほうが中身が伝わることもあります。
実際に書き換えてみる
ここまでの内容を、具体的な文章で比べてみます。以下は説明のための例文で、特定の誰かの実績ではありません。
伝わりにくい書き方
例1
楽天市場の店舗運営を3年間担当。商品登録、広告運用、セール対応を実施。売上を前年比120%に伸ばした。
事実は書かれていますが、担当範囲の広さも、どこまで自分で決めていたかも、なぜ売上が伸びたのかも分かりません。読む側は「で、この人は何ができるのだろう」というところで止まってしまいます。
担当範囲・判断・変化が見える書き方
例2
担当範囲:楽天市場1店舗(約800SKU)の運営全般。商品ページ、広告、販促設計、在庫調整の社内依頼まで。広告予算の配分は自分で決定し、金額の上限のみ上長承認。
課題:アクセスは前年並みで推移していたが、転換率が主力カテゴリだけ落ちていた。
考えたこと:流入全体ではなくカテゴリ単位で数字を分けたところ、下落しているのは特定商品群に限られていた。レビュー評価の低下と、競合の価格変更が重なった時期と一致していたため、価格ではなく商品ページ側に原因があると判断した。
実行したこと:該当カテゴリの商品ページで、サイズや使用シーンに関する問い合わせ内容を反映。あわせてカスタマー対応部門と連携し、低評価レビューの内容を毎週共有する流れを作った。
結果:該当カテゴリの転換率が回復し、店舗全体の売上も前年を上回った。
自己評価:同時期に市場全体も伸びていたため、売上の増加すべてが施策の効果とは考えていない。ただしカテゴリ単位で見ると、施策を入れた商品群の回復が先行していたことから、一定の影響はあったと見ている。
例2のほうが長くなりますが、読む側が受け取れる情報はまったく違います。どこまで任されていたか、どう考えたか、誰と動いたか、結果をどう見ているか。この4つが入っているだけで、経験の輪郭が出ます。
すべての経歴をこの粒度で書く必要はありません。主要な経験を2つか3つ、この形で書ければ十分です。
書いた内容は面接で掘られる
職務経歴書は提出して終わりではありません。書いた内容は、面接で確認される前提で考えておいたほうがいいと思います。
一般的に想定されるのは、次のような確認です。
「なぜ売上が伸びたと思いますか」
「その中で、あなた自身がやったことはどこですか」
「それは当社でも同じように進められそうですか」
「代理店とご自身の役割分担はどうなっていましたか」
これらに答えられるかどうかは、面接の準備というより、職務経歴書を書いた時点の解像度で決まります。逆に言えば、書く段階でここまで整理しておけば、面接で改めて対策する量はかなり減ります。
なお、面接は聞かれる場であると同時に、こちらが相手の会社を見る場でもあります。担当範囲や裁量、KPIを面接でどう確認するかについては、EC担当の転職面接|逆質問の考え方で扱っています。メーカーECに絞った考え方は、メーカーECへの転職を検討するときの考え方でも触れています。
職務経歴書を書くことは、自分のEC経験を整理すること
ここまで書いてきたことは、突き詰めると職務経歴書の技術ではありません。自分がEC担当として何を任され、何を考え、どう動き、何を変えてきたのかを、自分の言葉で説明できる状態にする作業です。
書こうとして手が止まるとき、経験が足りないとは限りません。やってきたことはあるのに、担当範囲や判断したことが自分の中で整理されていないだけ、という場合もあります。
自分の現在地を整理したい方へ
どこまでを任されていて、次に何を積むべきか。自己判断では見えにくい部分を整理したい方は、EC担当のキャリア現在地診断もご活用ください。所要時間は約3分です。
転職するかどうかを決める前でも、職務経歴書を書いてみる価値はあります。書き出してみると、自分が何をやってきて、どこがまだ薄いのかが見えてきます。その意味で、職務経歴書は応募のための書類であると同時に、いまの自分の経験を棚卸しする道具でもあります。
市場価値そのものをどう高めていくかという視点は、EC担当が市場価値を高めるにはで整理しています。

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