EC責任者コース LEVEL4|組織を作る
EC運用を続けていると、多くのメーカーが一度は内製化を検討します。代理店費用を抑えたい、ノウハウを社内に蓄積したい、自分たちでECをコントロールしたい——理由はさまざまです。
ところが実際には、内製化したものの成果が出ず、再び代理店へ戻す企業が少なくありません。私がメーカーECで代理店と仕事をしてきた中で見えたのは、内製化が失敗する会社には共通する組織構造があるということでした。
この記事では、EC内製化が失敗する理由を組織構造の視点から整理し、何を社内に戻し、何を外に出すべきかを具体的に切り分けます。
この記事でわかること
- 内製化とは「作業を自社に戻すこと」ではないという前提
- 内製化が失敗する3つの組織構造
- 判断・実行のどこまでを社内に持つべきかの切り分け
- 内製化を進める具体的な手順
- 内製化がうまくいっていないときのサイン
内製化とは「作業を自社に戻すこと」ではない
代理店を外しても、判断基準がなければ意思決定が止まる
内製化と聞くと「代理店をやめて全部自社でやること」をイメージしがちです。ただ、社内にナレッジがない状態で代理店を外しても、得られるものはほとんどありません。
広告予算をどう配分するのか、どのモールへ投資するのか、KPIは何を最優先にするのか、施策の優先順位をどう決めるのか。こうした判断基準が社内になければ、代理店がいなくなった瞬間に意思決定そのものが止まります。費用は浮いても、事業は前に進みません。
ゴールは「誰が担当しても説明できる状態」
内製化できていると言えるのは、誰が担当しても「なぜこの施策をやるのか」を説明できる状態です。この状態であれば、代理店を活用していても、事業の主体はメーカー側にあります。
逆に、担当者が異動した途端に同じ判断ができなくなるなら、たとえ全業務を自社で回していても、それは内製化ではなく属人化です。
内製化が失敗する3つの組織構造
① 判断の背景が社内に残っていない
代理店から毎月レポートを受け取り、定例会も実施している。それでも「なぜこの広告予算にしたのか」「なぜ楽天ではなくAmazonへ投資したのか」「なぜレビュー改善を優先したのか」という意思決定の背景まで残っている会社は多くありません。
数字は残っていても、考え方が残っていない。レポートを見ていることと、理解していることは別です。この状態で代理店を外すと、過去の判断を再現できなくなります。
② EC担当に代理店の提案を評価する知見がない
モールごとの特徴、広告運用の考え方、利益構造、競合環境。これらをEC担当が理解していれば、代理店の提案を評価できます。逆に知見がなければ、提案をそのまま受け入れるしかなく、意思決定は実質的に代理店側へ移ります。
この状態は「代理店に任せている」ように見えて、実際には「代理店に決めてもらっている」状態です。代理店を使いこなす力そのものがEC人材の価値になる理由は、なぜ代理店管理は評価されにくいのか|代理店を使いこなせるEC人材の市場価値で整理しています。
③「経験者を採用すれば解決する」と考えている
EC経験者を1人採用したから大丈夫、という発想も危険です。ECは1人の優秀な担当者だけでは成り立ちません。必要なのは、KPI・判断基準・ナレッジ・改善プロセスが組織として共有されていることです。
担当者が異動しても同じレベルで意思決定できる。ここまで作れて初めて、組織として内製化できたと言えます。採用は手段の一つであって、それ自体が解決策ではありません。
採用を検討する場合も、経験者を採る前に、自社が何を任せたいのかを整理しておく必要があります(EC人材を採用する前に整理すべきこと)。
何を社内に戻し、何を外に出すか
内製化を「全部か、ゼロか」で考えると失敗します。業務ごとに切り分けると、判断はほぼ明確になります。
| 業務 | どちらが持つか | 理由 |
|---|---|---|
| KPI設計・目標設定 | メーカー | 事業計画と接続する判断。外部が決めると評価軸が代理店都合になる |
| 広告予算の配分 | メーカー | チャネル間の優先順位は事業戦略そのもの |
| モール・チャネルへの投資判断 | メーカー | 既存販路や在庫計画との整合が必要 |
| 価格・値引きの方針 | メーカー | ブランドと卸先への影響を負うのはメーカー側 |
| 広告の日々の運用・入札調整 | 代理店でよい | 専門性と運用量がものを言う領域 |
| クリエイティブ制作 | 代理店でよい | 制作リソースと知見の蓄積が外部に厚い |
| レポート作成・データ集計 | 代理店でよい | 解釈はメーカーが行う前提なら外部化して問題ない |
| レポートの解釈と次の打ち手の決定 | メーカー | ここを渡すと判断軸が社内に残らない |
判断はメーカーが持つ
私がメーカーECの責任者なら、最初に社内へ戻すのは施策の決定権です。広告予算の配分、モールごとの投資判断、レビュー施策の優先順位、KPIの設計。ここはメーカーが持つべき領域です。どの数字を見て判断するかは、ECのKPIとは?売上のどこに問題があるかを分解するための数字で整理しています。
実行は専門性のある側に任せてよい
一方、広告運用・デザイン制作・SEO・モール運営といった専門領域は、代理店のほうが経験値を持っていることが多くあります。ここを無理に社内へ戻すと、品質が落ちたうえに担当者の時間も奪われます。
重要なのは代理店を使うかどうかではなく、知識がどこに蓄積されるか・意思決定を誰が持つか・判断基準が社内にあるかの3つです。任せた相手をどう評価するかは、EC広告代理店の評価方法|見直しのサインと継続・変更の判断基準が具体的です。
内製化を進める4ステップ
いまの判断が誰の手にあるかを棚卸しする
予算配分・チャネル投資・KPI・価格の4つについて、実質的に誰が決めているかを書き出します。代理店の提案をそのまま承認しているなら、それは代理店が決めている状態です。
判断の背景を記録する仕組みを作る
定例会の議事録に「なぜその案を選んだか」を1行残すだけでも変わります。数字ではなく理由を残すことが目的です。
判断だけを先に社内へ戻す
運用は代理店に置いたまま、KPI設計と予算配分の決定をメーカー側に移します。作業を戻すのは最後で構いません。
担当者が代わっても回るかを検証する
別の担当者が同じ資料を見て同じ判断にたどり着けるかを確認します。ここで再現できなければ、まだ属人化の段階です。
内製化がうまくいっていないサイン
こんな状態は要注意
- 代理店の提案に対して「いいと思います」以外の反応が出てこない
- 過去の施策について、なぜそれを選んだのかを説明できる人が社内にいない
- 担当者が変わるたびに、施策の方針がリセットされる
- レポートは毎月受け取っているが、そこから自社で打ち手を決めた例がない
- 「代理店費用を減らす」ことが内製化の目的になっている
この記事で扱わないこと|次にどこを読むか
この記事の役割は、内製化を「判断できる組織を作ること」として捉え直し、何を内に戻すかを設計できるようにすることです。組織・体制をEC戦略全体の中でどう位置づけるかは、EC戦略とは?メーカーECの戦略設計を市場・商品・チャネル・KPIから解説で扱っています。
まとめ
この記事のまとめ
- 内製化とは作業を自社に戻すことではなく、判断できる組織を作ること
- 失敗する3つの構造は、判断の背景が残らない/評価する知見がない/採用で解決すると考える
- KPI・予算配分・投資判断・価格方針はメーカーが持ち、運用や制作は外部でよい
- まず判断だけを社内へ戻し、作業の内製化は後回しでよい
- 担当者が代わっても同じ判断ができるかが、内製化できたかの基準
代理店をやめれば内製化できるわけではありません。ECは戦術ではなく構造で成長する領域です。だからこそ、内製化を考える前に「判断できる組織」を作ることが先だと私は考えています。
EC責任者コース LEVEL 4|組織を作る
この記事は「人・代理店・内製外注を設計する」LEVELの一部です。
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自分の現在地を整理したい方へ
内製化の設計や代理店マネジメントを判断できることは、EC責任者として評価される力に直結します。いまの自分の強みと課題を客観的に把握したい方は、EC担当のキャリア現在地診断もご活用ください。所要時間は約3分です。

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