EC責任者コース LEVEL2|管理する
売上目標は達成しているのに、事業として利益が残っていない。EC責任者になると、この状態を一番に問われます。
ECは、売上が伸びるほどコストも増える事業です。広告費、モールの手数料、ポイントやクーポンの原資、送料。どれも売上に連動して増えるため、売上を追う力と、利益を残す力は別のものになります。
この記事では、EC事業の利益をどう管理するかを、売上から何を引くか、モールごとに何が違うか、広告費をどこまで使ってよいか、という順で整理します。どの数字を見て異常に気づくかはECのKPIとは?売上のどこに問題があるかを分解するための数字で、広告予算をどう配るかはECの予算配分はどう決める?広告費・売上目標・CPA・ROASから考える投資判断で扱っているので、ここでは「利益をどう管理するか」に絞ります。
この記事でわかること
- ECの売上から何が引かれるのか、見落とされやすいコストはどれか
- 粗利・貢献利益・事業利益を分けて見る理由
- モールごとに利益の残り方が違う理由と、比べ方
- 広告費を判断するときのACOSの考え方と、損益分岐の求め方
- 値引き・ポイント施策を決める前に確認しておくこと
- 月次で利益を管理するための最小限の運用
利益管理とは「何を引くか」を決めて、毎月同じ形で見ること
利益管理というと難しく聞こえますが、やることは単純です。売上から何を引いて利益とするのかを決め、その形で毎月同じように見る。これだけです。
難しくなるのは、月によって引くものが変わるときです。ある月は広告費を引き、別の月は引かない。セールの原資が販促費に入る月と、入らない月がある。こうなると、利益が増えたのか減ったのかを比べられません。先に形を決めることが、利益管理の半分です。
ECの売上から引かれるもの
メーカーがECで売るとき、売上から引かれるものは大きく次のように分かれます。会社によって呼び方も、どこまでEC事業の数字として持つかも変わりますが、抜けやすい項目は共通しています。
| 区分 | 主な中身 | 売上との連動 |
|---|---|---|
| 原価 | 商品の製造原価・仕入原価 | 売上に比例して増える |
| モールの費用 | 販売手数料、システム利用料、モールのポイント原資、アフィリエイト費用 | 売上に比例して増える |
| 販促費 | クーポン、セール時の値引き、自社負担のポイント、同梱物 | 施策のたびに増える |
| 広告費 | モール内広告、検索広告、SNS広告、代理店の運用手数料 | 投資の判断で増減する |
| 物流費 | 送料、梱包資材、倉庫保管料、出荷作業費、返品時の再入庫 | 出荷数に比例して増える |
| 決済・その他 | 決済手数料、返品・キャンセル、システム利用料 | 売上に比例して増える |
| 人件費・外注費 | EC担当者の人件費、制作・撮影・運用の外注費 | ほぼ固定。売上が伸びても急には増えない |
見落とされやすいのは、売上に比例して増えるコスト
特に抜けやすいのが、送料無料ラインの負担、ポイント倍率を上げたときの自社負担分、セール時の値引き原資、返品にかかる費用です。どれも施策の意思決定と同時に発生するのに、集計は後からになるため、判断の時点では見えていないことがよくあります。
POINT
施策を決めるときに「この施策で増えるコストはどれか」を先に書き出しておくと、あとから利益が合わないという事態を避けられます。広告費だけを見て判断すると、ポイントと送料で利益が消えていた、ということが起こります。
粗利・貢献利益・事業利益を分けて見る
すべてを一段で引いてしまうと、どこで利益が減ったのかが分からなくなります。実務では、次の3段に分けると判断しやすくなります。
| 段階 | 計算 | この段階で分かること |
|---|---|---|
| 粗利 | 売上 −(原価+モール手数料などの販売に直結する費用) | その商品・そのチャネルが、そもそも利益を生む形になっているか |
| 貢献利益 | 粗利 −(広告費+販促費+物流費) | 施策や投資を含めて、その商品・チャネルが事業に貢献しているか |
| 事業利益 | 貢献利益 −(人件費・外注費などの固定費) | EC事業全体として利益が残っているか |
この分け方の利点は、打ち手が変わることです。粗利の段階で薄いなら、価格や原価、手数料の高いチャネルの使い方を見直すしかありません。粗利は出ているのに貢献利益が残らないなら、広告や販促の使い方の問題です。事業利益だけがマイナスなら、売上規模に対して体制が重いのかもしれません。
モールごとに、利益の残り方は違う
同じ商品を同じ価格で売っても、モールによって手元に残る利益は変わります。手数料の水準、ポイントやクーポンの負担の仕組み、セールへの参加の仕方、広告が売上に占める役割が違うからです。
そのため、モールごとの売上を並べて比べるだけでは、どこが儲かっているかは分かりません。比べるなら、次の3つをモールごとに出しておきます。
- 粗利率:手数料やポイント原資まで引いた後で、何%残るのか
- 広告依存度:売上のうち、広告経由がどれくらいか
- 販促の頻度:セールやクーポンをどれくらいの頻度で使っているか
セール時期に売上が集中するモールでは、月単位で見ると利益率が大きく上下します。四半期や半期でならして見る方が、実態に近くなります。チャネルごとの性格の違いは自社ECとモールの違いとは?メーカーEC担当者が知っておくべき使い分けの考え方で整理しています。
広告費は「ACOS」で見ると判断しやすい
広告の良し悪しをROASで見ている会社は多いと思います。ROAS(広告経由の売上 ÷ 広告費)は売上に対する効率を示す数字で、利益とは直接つながりません。
利益の観点で見るときに使いやすいのがACOSです。ACOSは、広告費 ÷ 広告経由の売上で、売上に対する広告費の比率を表します。ROASの逆数と考えて差し支えありません(ROAS 500%=ACOS 20%)。
損益分岐のACOSは、粗利率から出せる
広告費以外のコストを引いた後の粗利率が分かっていれば、その広告が赤字になる水準は計算できます。
計算の考え方
損益分岐ACOS = 広告費を引く前の粗利率
粗利率が30%なら、ACOS 30%で利益はゼロ。ACOS 20%なら、広告経由の売上のうち10%分が利益として残る計算になります。
この水準を先に決めておくと、「ACOSが悪化したから止める」ではなく、「損益分岐を超えたから見直す」という判断ができます。商品によって粗利率が違えば、許容できるACOSも違います。全商品を同じ基準で管理すると、利益の出る商品の広告まで止めてしまいます。
ただし、広告の目的が新規顧客の獲得であれば、1回の購入だけで判断しない考え方もあります。その場合は、リピートまで含めた1人あたりの売上(LTV)と、獲得にかけてよい金額を決めたうえで見ます。どこまで投資するかの判断は、LEVEL5のEC事業計画の作り方で扱います。
値引き・ポイントは「何%までなら残るか」を先に決める
セールやポイント施策は、売上を作る力が強い反面、利益を一番削ります。値引き率とポイント倍率は、決める前に上限を持っておきます。
- その商品の粗利率はいくらか
- 値引き・ポイント・広告を合わせて、何%まで使えるか
- その施策で増えるのは新規の購入か、もともと買う予定だった人の購入か
- セール後に定価で売れなくなる期間がどれくらい発生するか
4つ目は見落とされがちです。セールで前倒しに買われた分、直後の売上は落ちます。月単位で利益を見ていると、この落ち込みが別の原因に見えてしまいます。
月次で利益を管理するための最小限の運用
仕組みを作り込む前に、次の4つを決めるだけでも管理は成立します。
引く項目を決める
粗利・貢献利益・事業利益の3段で、それぞれ何を引くかを文章で決めておきます。
誰がどの数字を持つかを決める
原価は商品部、広告費は代理店のレポート、物流費は物流部門というように、出どころを決めます。毎月探すことがなくなります。
チャネル別に並べる
モール別・自社EC別に同じ形で並べます。全社の合計だけでは、どこで利益が出ているかが見えません。
差が出た理由を1行書く
前月・前年と比べて動いた項目に、理由を1行だけ残します。これが翌月以降の判断材料になります。
代理店に運用を任せている場合も、レポートの広告費と、実際に請求された金額を突き合わせておきます。運用手数料が別計上になっていて、利益の計算から抜けていることがあります。
利益が残らないときに疑う順番
| 状態 | 疑うところ | 最初の打ち手 |
|---|---|---|
| 粗利率が下がっている | 値引き・ポイント倍率の上昇、原価の上昇、手数料率の高いチャネルの比率が増えた | 施策別・チャネル別に粗利率を分けて出す |
| 粗利は出ているが貢献利益が薄い | 広告費の増加、送料・物流費の増加 | 広告をACOSの水準で分け、損益分岐を超えているものを特定する |
| 売上は伸びたが利益は横ばい | 伸びた分が販促と広告で相殺されている | 伸びた売上が新規によるものか、値引きによるものかを分ける |
| 事業利益だけがマイナス | 売上規模に対して固定費が重い | 体制と外注範囲を見直す。売上を追うだけでは解決しない |
この記事で扱わないこと|次にどこを読むか
この記事の役割は、EC事業の利益を「決めた形で毎月見られる状態」にすることです。広告予算をチャネルにどう配るかはECの予算配分はどう決める?で、どのモールにいつ投資するかという判断はEC事業計画の作り方で扱います。
また、ここで見てきた利益管理は、売上・粗利・広告費・在庫をそれぞれ分けて出したうえで、どこから手を付けるかを決める作業です。この数字を分けて見る力がどこに位置するかは、EC担当者のスキルを層で整理した記事で扱っています。
まとめ
この記事のまとめ
- 利益管理は、売上から何を引くかを先に決め、毎月同じ形で見ること
- 粗利・貢献利益・事業利益の3段に分けると、打ち手が変わる
- モールによって手数料・ポイント・セールの仕組みが違うため、売上だけを並べても比較にならない
- 広告はACOSで見ると利益とつながる。損益分岐は粗利率から計算できる
- 値引きとポイントは、上限と、セール後の反動まで含めて決める
- 利益が残らないときは、粗利 → 貢献利益 → 事業利益の順に切り分ける
売上の話は社内で共有されやすい一方、利益の話はEC担当の手元で止まりがちです。どのチャネルで、どの施策で、いくら残っているのか。それを自分の言葉で説明できることが、責任者として数字を任される出発点になります。
EC責任者コース LEVEL 2|管理する
この記事は「売上・利益・KPI・予算を管理する」LEVELの一部です。
▶ コースの全体を見る
次に読む:
ECの予算配分はどう決める?広告費・売上目標・CPA・ROASから考える投資判断
自分の現在地を整理したい方へ
売上だけでなく利益まで持てているかは、EC責任者として評価される分かれ目のひとつです。いまの自分の強みと課題を客観的に把握したい方は、EC担当のキャリア現在地診断もご活用ください。所要時間は約3分です。

コメント